漢が漢に惚れるとは・・・(非BL対応)
二人が会津候のプライベートルームから去ると、会津候はおれに苦笑しつついった。
「余は一度ならずも二度までも、土方に大切な友人をとられてしまったようだ」
会津候の瞳とおれのそれとが合った。
そのとき、おれははっとした。
斎藤と双子のことをいっているのだ、と。
「否、違うな」
おれがそうと気がついたことを、察したのだろう。
会津候は、苦笑とともに付け足した。
「どちらも最初から惚れ込んでいる。余は、その希望に添うようにしたまでのこと。余もまた、土方に惚れ込んでおるのであろう・・・」
「よもや俊冬と俊春までつかわされるとは、思いもよりませんでした、兄上?」
弟にいわれると、その兄はさらに苦笑した。
「俊春は兎も角、あの俊冬がああまで惚れ込むとは、思いもせなんだ」
「あの・・・、俊冬殿と俊春殿は、なにゆえ新撰組に肩入れしてくれたのでしょう?そもそも、あの二人はどういう方なのか・・・?」
おれは当惑していた。
双子がおれたちに語ったことが、嘘だというわけではない。だが、ずいぶん端折っているだろう。くわえて、ずいぶん過小評価的なことしか伝えてくれていない気がする。
「わたしにもよくわからぬのだ」
会津候は、庭でお座りしている相棒のほうをみてから、おれへと視線を戻した。
「じつは、調べさせたことがある。いや、なにも疑ってのことではない。あの二名のこれまでの功績は、おぬしや土方が考えている以上のものだ。その功績に報いたくてな。が、あのものどもはかたくなだ。ゆえに、せめて身内にと思うたのだ・・・」
「謎、だらけだ」
桑名少将がいった。いたずらっ子のような笑みが、シャープな顔に浮かんでいる。
「まるでこの世に忽然とあらわれた、かのようにな。当人たちからきいておることすら、調べきれなんだ」
会津候のその言葉は、おれに衝撃以上のものを与えた。
「義母と異母姉、二人の拾い子の存在をしったのは、つい最近のことだ。それでやっと、そのものたちが今後なに不自由なく暮らせるよう、金子を授与することを承知させることができたわけだ」
そこで言葉をきり、会津候は微笑した。
「縁と信、わたしは、あの二人からこの二つを教わった。おぬしはそう思わぬか、相馬?」
桑名少将も、同意するかのようにおおきく頷いている。
縁・・・。
もちろん、そうだ。
そして信・・・。
こちらも同様だ。
だが、あの双子はいったい・・・。
「坂本は、たいした男であった。惜しい男を亡くしたな。もしかすると、わが国は大切なものの一つを、永遠に喪ったのやもしれぬ・・・」
おれが暇乞いをする直前、会津候が呟くようにいった。
おれと会津候の視線が合った。
「先日の試合の後の坂本の案、じつに考え深いものであった。じゃが、わたしの立場では、それを容認することなどできるはずもない」
「承知しております」
おれは、頭を下げた。
「坂本殿も、会津候の意は重々承知されていたかと。俊冬殿と俊春殿が、それはもう八面六臂の活躍をされました。いまごろはきっと、あの世で船に乗り、世界中をまわっておられるでしょう」
会津候は、うれしそうに頷いた。
「そうか、船で異国をまわる、か。愉しそうじゃ」
「兄上には無理でございましょう?夏に宇治川の舟遊びですら、顔色がたいそうお悪かった」
桑名少将は、膝を一つうって思いださせたようだ。
おれたちは、いっせいに笑った。
おれは、緊張感がすっかりなくなっていることに気がついた。