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食べログ・コスパNO.1、の酒饅頭?

 不動堂村は、現代のJR京都駅から徒歩10分くらいだろうか。

 堀川通り沿いにある、こじんまりとした村である。


 現代では、JR京都駅から近いこともあり、有名どころのホテルも建っているし飲食店などもおおい。もちろん、幕末いまはそういったものを感じることすらなく、ほんとにおだやかな村である。

 が、田園地帯がひろがっているというわけではないので、すこしあるけば店がいくつもあるわけだ。


「饅頭屋」もその一つだ。

「屋号がそのまんまやないかい」と突っ込みたくなる饅頭屋である。


 さすがは酒蔵の町である。

「饅頭屋」の売りは、「酒饅頭」。蒸篭で蒸したあつあつの饅頭を食べることができる。


 近所の人たちは、自分の家から皿や小さな籠をもっていってはそこに入れてもらってテイクアウトしているようだ。


 隊士たちも、他出や市中見廻りのかえりに立ち寄ってはつまんでいる。テイクアウトする際には、店が竹の皮に包んでくれる。

 子どもの掌くらいの大きさのが三個で一文、12円くらいである。

 三個食べれば夕飯までは充分腹をみたしておけるだろう。ゆえに、隊士たちの受けは上々だ。したがって需要がある。


 テイクアウトはもちろんのこと、店内には小さな卓と椅子がいくつかあるので、店内であつあつを食べることもできる。その場合はお茶をだしてくれる。


 新撰組うちの勘定方が「饅頭屋」の店主と談判し、決済は勘定方がまとめておこなっている。

 いわゆる顔パスだ。キャッシュレスってやつだ。面倒な手続きもなく、カードやスマホも必要なし。じつに便利なものだ。


 それは兎も角、「饅頭屋」は、まさしく新撰組御用達の饅頭屋なのである。



 思えば、山崎が子どもらに小遣いをもたせたのは、この待ち合わせのためだったわけだ。


 相棒をなかにいれることはできないので、子どもらと店先でまたせることにした。

 子どもらは、好きな数だけを発注している。そして、受け取るやいなや頬張った。


 相棒は店先でお座りし、子どもらがふーふーしながら酒饅頭を頬張るのを、辛抱強くみつめている。


 おれは、「相棒にはやってはいけない」と子どもらに告げることを忘れなかった。


 藤堂は、店内で待っていた。店内にもかかわらず、編笠をかぶって。

 おれはかれに近寄った。卓の上をみると湯呑みと皿が置いてあったが、どちらもなにもなかった。


「相馬君、山崎先生からきいている。阿部さんが鳥撃ちにいったので、いましかなかった。それでも、篠原さんや加納さんのがあるから・・・。しかし、朝から先生を探すようにいわれ、その機を利用し飛びだしてきたんだ」

 おれは、藤堂の真向かいに座った。奥から「饅頭屋」の年老いた女将が茶をもってきてくれた。

「三個、いただけますか?」

 おれがお願いすると、藤堂も追加を頼んだ。女将は、気立てのいい顔に愛想笑いを浮かべ、奥へと消えた。


「昨夜、その、先生は他出されてましたよね?」

 おそるおそる尋ねると、藤堂は編笠を指でもちあげ、今若のごとき顔ににっこりと笑みを浮かべた。


「先生のこと、おねぇっていうんだって?」

 藤堂は、おかしそうにくっくと笑った。


「昨夜、俊春さんとでていった。ああ、きいている。あの兄弟・・とは、江戸で会ったことがあるから。先生のお気に入りだよ。双子なんだって?ちっとも似てないよね?」

 いや、藤堂よ。問題はそこではない。


 おれは、内心でそう突っ込みつつ、笑みを返しておいた。


 女将が皿に入った酒饅頭を卓の上に置き、また奥へと消えた。


 一個、頬張った。酒精のほんのりした味と香りが鼻梁をくすぐり、口中を満たす。

 が、餡は熱かった。


「あちちっ!」舌を火傷しそうだ。


 藤堂が編笠の下で笑ったのがわかった。


「で、いつごろかえってきました?」

「それはわからないな。すくなくとも、就寝時にはいなかったし、起床したときもいるのかいないのか、とくに気をつけていなかったから。だけど、探しにゆけといわれたので、戻っていなかったのかもしれない」

「そうですか・・・」

 おれは、いろんな意味で落胆した。


「今宵、だよね?先生がいなくなるなんて、実感がわかないけど・・・」

 藤堂は、また指先で編笠をあげた。笠の奥からおれをみつめる・・・。


 どこか必死さがうかがえる。

 おれは、藤堂に話をしたくなった。が、いまはまだまずいとも思った。


「兎に角、どこでみられるかわかりません。はやく隠れ家にいきましょう」

「ああ、そうだね。ところで、それ、食べないんだったら包んでもらおう。ついでに、もうすこしほしいな。わたしは、ここの酒饅頭が大好きでね。高台寺にいったことを悔やむ一つが、ここの酒饅頭なんだ」

 藤堂は、そう告白してからみじかく笑った。


「まさか、戻る決意も?」おれも笑ってしまった。

「ご明察。あ、新撰組うちでもってくれるよね、お代?」

 さらに、そう念を押してきた。

 

 おれはうれしかった。藤堂は、完璧に新撰組うちに戻ってきてくれたのだ。


 藤堂、そして相棒や子どもらと、寺子屋の遠足みたいにわいわい騒ぎながら「ホーンテッドハウス」へと向かった。

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