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漢字のわかる犬と槍指南

「朝帰り、の時刻ときでもありませぬね。もうお昼時です。わかりました。湯漬けでも準備いたしましょう。まったく、うちの義弟おとうとたちときたら、たまには女子おなごと愉しめばよいものを・・・」

 おみつさんは、ぶつぶついいながら懐刀を畳から引き抜いた。それから、原田を踏んづける勢いで畳を踏み鳴らし、奥へと消えていった。


 おれは、その背をぽかんと眺めていたが、ふと視線に気がついた。後ろを振り返ると、縁側に顎をのせ、相棒がこちらを凝視している。

「超絶かっこわるい、と申しておる・・・」

「ええ。この顔がでしょう、俊春殿?わかっています」

「それと、超絶怖い女性は、美しいに大津の津と書いてお美津という、と」

「ええっ?相棒、おまえ漢字がわかるのか?いいや、そこじゃない。っていうか、いったいぜんたいどうなってるんだー?」

 おれは混乱していた。


「兄上、超絶っていったいなんでしょうか?」

 俊春の問い。

「動いた後は誠に腹が減る。原田殿もそうであろう?」

 そして、わが道をゆく俊冬の問い。

「っていうこたあ、しっかりあたためたわけだな、旧交とやらを?しかも激しく?」

 原田と双子の会話や笑い声が背を叩く。


 双子は、おれにいろんな意味で試練を与えてくれる。いや、きっと試練を与える為に、おれのまえに現れたのではないか?おれはそんな気がしてならない。


「ちょっとどいてよ、主計さん。邪魔邪魔っ!兼定、竹吉をのせてやってくれ」

 市村の怒鳴り声と竹吉の笑い声が近づいてきた。


 おれは、市村に怒鳴りつけられた挙句に子どもらに突き飛ばされ、廊下にそのままへたりこんだ。


 庭で遊ぶキッズたちをぼーっと眺めるおれは、超絶かっこう悪いに違いない。


「もったいぶっていないで教えてくれよ、どうだった、ええ?」

 湯漬けをかっこんでいる双子に、原田は執拗に尋ねている。

 それが、そもそもの目的についてでないことをおれは確信した。


「ご馳走様でした」

 二人は、終始無言のまま湯漬けを食べ、それを終えるとしっかり掌を合わせた。そのタイミングがまったくおなじだ。そういえば、これまでも呑み終わるといったようなささいなことが同時期におこなわれていることを、おれは思いいたった。


 もっとも、こんなこともささやかでどうでもいいことではある。


「わたしも弟もせんが得意」

 俊冬は、あいかわらずのマイペースぶりだ。しかも、原田の質問をスルーし、いきなりの剣術談義。

 ああ、後の先なら、おれもそうだ。おれは、縁側でへたり込んだ姿勢のままくるりと体ごと向き直った。


 いまだ原田はごろごろしており、畳に頬づえついて双子をみているし、双子は双子で膳のまえで並んで生真面目な表情で原田をみている。


「お?意外だな。おれはせんせん。兎に角、攻めて攻めて攻めまくるってのが得意だ」

 原田だ。たしかに、原田の槍さばきは、振り回し、薙ぎ払っての一方的感が強い。というか、槍ってそんなもんじゃないだろうか?


 俊春が眉をひそめた。顔が真っ赤になっている。

「弟はじつに不器用。相手によってかえるような器用さはない」

 ・・・?。あれだけ超人的な業の数々をみせてくれた俊春を、不器用よばわりする俊冬。


「だったら俊春、おれが指南してやってもいいぞ、どうだ?」

 ・・・?。原田が槍の指南を?俊春なら、槍もなんなく遣えそうだと思うが。


「いえ、わたしは・・・」

「原田先生の指南は、高尚すぎて弟ではついてゆけぬはず。またの機会にしてやってください。それよりも、旧交をあたためた件です」

 原田へいったことの意味はよくわからなかったが、兎に角、俊冬のわが道をゆく的なペースにも慣れてきた、と思う。

 おれは室内へと膝行し、かれの話をきく姿勢を整えた。


 そのおれの背に、庭で遊ぶ子どもらの笑い声がぽんぽんとあたる。

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