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別腹ってスイーツだけじゃないんだ

 密会、そう、まさしく密会だ。


 新撰組こっち御陵衛士あっちは、現在、表向きはコンタクトをとりあうことが禁止されている。それは、一般隊士であろうと幹部だろうとおなじこと。さらには、局長副長も同様だ。


 つまり、おねぇと局長、副長が会うことは機密事項なわけである。


 場所は、当初は局長の別宅でということも考えたが、プライベートの場におねぇを呼び、そこで酒を酌み交わし談笑する。そして、その後に暗殺する、というのもあまり寝覚めがいいものではない。

 したがって、新撰組が借り受けている家の一つをつかうことになった。


 そこで、局長は約束の軍資金なるものをおねぇに渡す。それから、京で局長がもっとも学び、実践してきたスキルを総動員し、おねぇをしたたかに酔わせる。


 つまり、新撰組局長として、接待につぐ接待で身につけた業のすべてをもっておねぇに酒を呑ませるのだ。おねぇは、いまさらだがただのおねぇではない。北辰一刀流皆伝の立派な剣士なのだ。

 酔わせてからでないと、大石ら暗殺の実行部隊も掌にあまる・・・。


 だれもがそう判断しているのだ。


 夜、副長の部屋に集まったのは、局長、副長、井上、永倉、原田、山崎、島田、双子、そしておれだ。


 まずは、俊冬が厨でつくってくれた蕎麦をすすった。


 双子は、小者っぽく作務衣姿である。いっておくが、作務衣とはもともと僧侶が作業をおこなうときに着たものだ。現代のようにファッション的なものではない。まぁ現代のものをださくしたような、実用的な作業着といったところだろうか。


「うまいな。うむ・・・。味も濃くてじつにいい」

「出汁がよくきいていますな」

「そうだろう、局長、源さん?こんなうまい蕎麦、そう喰えるもんじゃない。というわけで・・・」

「承知いたしました」

 局長と井上の讃辞の後、べた褒めしたのがだれかはいうまでもない。


 永倉は、空になった鉢を双子の兄のほうにさしだした。俊冬も心得ている。受け取ってから、つぎは原田と島田のそれも畳の上からもちあげる。


「あ、わたしも」

 控えめに申しでたのは山崎だ。つづいて、井上と局長も。

 おれもすぐにのっかった。


「夕餉を喰ってそれか?」

 副長が呆れたようにいうと、永倉がすぐに突っ込んだ。

「こういうのは夕餉のとは別に袋があるんだよ、土方さん」

「そういうのを別腹、というのです」

「なんだそりゃ?腹切りの一種か?」

 おれがいうと、すぐに原田が自分の着物のまえをはだけ、腹の一文字傷をぱんぱんと叩きながらきいてきた。


「違いますよ。女性は、食事をした後にケーキやアイスなどのスイーツ、もとい、饅頭や羊羹といった甘い物を食べるとき、そういうふうに表現するのです。満腹状態でも甘い菓子なら食べられる、ということですね」

「へー、そういや、うちの小磯も朝餉や夕餉のすぐ後に、饅頭やら羊羹やらつまんでるな」

「うちのおまさもだ」

 おれの説明に、うんうんと頷く永倉と原田。


 まぁ小磯さんもおまささんも女性だからという以前に、身籠っていたり子育てがあったりと、必要以上にカロリーを消費しているので、その分の補充を体じたいが欲しているのだろう、たぶん。


「だったら別腹、別腹だ。なら、副長は別腹、いいんだな?」

 俊冬を手伝って弟の俊春も鉢を回収し、でてゆこうとしたところに永倉が念を押した。

「馬鹿野郎、だれもいらねぇとはいってねぇ。おれも別腹だ」、と副長。


 双子は、笑って副長の部屋をでていった。


 二杯目は、すこし味が薄く麺の量も減っていた。


 さすがはプロの蕎麦屋に扮していただけはある。それぞれの腹にあった味、量の調整をしてくれているに違いない。


 囮捜査官など、双子に比べればたいしたことはない。かれらこそが究極の潜入捜査官、密偵なのだ。


 それにしても、ここまで美味かったり気配りができるというのは、もはやプロの域をも超越している。


 それだけではない。双子にはさらになにかあるような気がする。


 おれは、いろんな意味で双子のことが気になってしかたがない・・・。

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