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「ザ・ホーンテッドハウス」

 双子の兄の俊冬は、店をたたんで新撰組の賄い方として、ああ、これはあくまでも便宜上ではあるが入隊した。弟の俊春は、町奉行所の同心をいわゆる自己都合で退職、こちらは新撰組の小者として入隊した。


 二人ともがそう望んだのだ。ふだんはなんの変哲もない料理人であり使用人として過ごし、その間にあらゆるところに潜入して探る。

 さすがはプロである。


 おれは、双子に相談してみることにした。

 こんなこと、新撰組のだれかに相談できるわけもない。

 藤堂のことも考えたが、脱けるチャンスを探っているかれを動揺させるだけだろう。

 どう考えても双子しかいない、というわけだ。


 そして、おれには双子にききたいこともあったのだ。


「掃除をしてみたが無理であった」

 俊冬の屋敷だ。先日話をしたあの部屋で、双子とおれ、それと相棒が火鉢を囲んでいた。厳密には、双子とおれが火鉢に掌をかざし、相棒はおれと双子の間で寝そべっている。


 火鉢に置かれた鉄瓶から湯気が勢いよくでている。

 俊冬は、そういいながら鉄瓶から湯呑に白湯をついでくれた。


「そもそも、ここは柳生家の屋敷なのですか?」

 おれは、掃除がされたはずの室内をみまわしながら尋ねた。

 きれいになっている箇所がわからない。すくなくとも、おれにはそこがみつけられない。

「いいや、柳生家のものではない」

 俊冬はさらりといった。

「暗殺した公家のものだ。ああ、そういえば、斎藤殿や永倉殿はみえるのだな?」

「は?」

 おれは、火鉢ごしに俊冬をみた。その俊冬の隣で俊春がおれをみている。


 双子の・・・。やはり、なにか異種のものを感じる。すくなくとも、永倉らからは感じられぬものだ。そう、どちらかといえば、副長や相棒から感じるものに近いような気がする。

 これはいったいなんなのか・・・。


「白いものがみえた、と申していた」

「ああ、あれは原田先生をからかったのですよ。原田先生は、幽霊が怖いらしく・・・」

「人を斬る者には斬った者が憑りついている」

 それまで無言を貫いていた俊春が、突然おれの言葉にかぶせてきた。

「この屋敷で、わたしは一族郎党皆殺しにした」

「え?」

 おれは俊春をみた。なぜか背筋がぞくぞくする。

「憑りつかれた者はみえやすい。なぜなら、憑りついているもの・・が呼ぶからだ」

 俊春は口を閉ざした。それから、三本しかない掌と五本ある掌の間にある湯呑に視線を落とした。


 しーんと静まり返った室内。

「ばちっ!」

 部屋のどこかでラップ音が響く。その絶妙すぎるタイミングに、おれは飛び上がりそうになった。


 非科学的なことを信じているわけでも信じないわけでもない。どちらかといえば信じていないだろうか。

「YouTube」などで、閲覧注意なるタグのついた怖い系を興味本位でみた後のシャワー。シャンプーをしているとき、後ろからだれかにみられている気がする・・・。

 あえていうなら、それくらいは信じているだろうか・・・。


「俊春、やめぬか。怖がらせるのはよせ」

 俊冬は、双子の弟に注意した。

「そ、そうですよね?」

 おれは、無意識のうちにほっと息を吐きだしていた。

 それまで畳に顎をつけて瞼を閉じていた相棒は、頭をもたげておれをみている。


「みえぬ者をいたずらに怖がらせるものではない、俊春」

 俊冬にはまだつづきがあった。

「え?え?」

 おれは、周囲をみまわしてしまった。

「ばんっ!」

 そのタイミングで先ほどのより大きなラップ音が・・・。

 しかも、どこかの部屋からだろうか。「どさっ、ばたっ」というなにかが暴れるような音につづき、「たたたっ」となにかがどこかを駆ける音まで響き渡った。


 これは、ぞくにいうポルターガイストなのか・・・。 


 相棒がむくりと起き上がった。それから、をなにもない一点に向けた。その先にはなにもない。まるでそこになにかがいるかのように、を向けたままはずさない。すくなくとも、おれにはそこになにもみえないし、なにものも感じられない。


 これは、犬や猫などを飼った経験のある人のあるあるだ。だれもが一度や二度経験しているに違いない。

 なにもないところをじっとみつめる自分の飼い犬や飼い猫・・・。いいや、ゆきずりの犬や猫だってなにもない空間をじっとみつめているときがある。


「犬にもみえる」

 俊春が囁いた。

 ますます背筋がぞくぞくしてきた。思わず、俊春に体ごと寄ってしまった。


「斎藤殿がここではなく、あちらの家を所望したのはここでみえたからであろう」

 おれが近づいた分、俊春はさりげなく体を離しながら囁いた。もちろん、おれも追いかけずにはいられない。するとまた離れる。俊春の体が俊冬にぶつかった。


 おれたちは、火鉢の片側に三人身を寄せ合うようにして並ぶという、ずいぶんとバランスの悪い構図となってしまった。

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