いざっ!局長マジック炸裂
「歳、歳、おぉそうか、それは頼もしいかぎり。歳が勧誘してくるなどそうあるものではない。ぜひとも歳を助けてやってほしい」
その日、副長の部屋で双子を紹介された局長は、いつものようにまずは副長の肩を、それから俊冬、俊春の肩をばんばんと叩き、歓迎の意を示した。
局長は、副長がいつも座す上座からごつい顔に満面の笑みを浮かべて相対する双子をみている。
副長はその局長の右斜め前、おれは左斜め前に座し、それをみていた。
双子は、その荒っぽい歓迎のスキンシップに驚いたとしても、そこはさすがだ。眉一つ動かすことのないポーカーフェイスを保っている。
「公儀隠密とききおよんでいる。なんでも、将軍家のみならず帝にも仕えていた、とか」
「かっちゃん、声が高いっ!」
朝のしじまのなか、局長の大音声が響き渡っただろう。副長は即座に注意した。昔ながらの呼び方をつかってしまっている。
「それはすまなかった、歳・・・。なれど、こうして相対していても強く切れ者であることがひしひしと感じられる」
局長は、しゅんとしてからすぐにぱーっと笑顔になった。
局長マジックだ。さしもの双子もこれに落ちた。
「二人には、隊士としてではなく後見役のような立場で活動してもらうつもりだ。つまり、諸藩の動静を探ってもらおうと・・・」
そこまでいったとき、襖に影が映った。
「局長、登城の時間です」
井上だ。
「柳生新陰流の遣い手ともきいている。ぜひとも手合わせを・・・」
「局長、すでに理心流は敗れたよ。この二人は、・・・」
局長は立ち上がりかけたが、副長の言葉に上げかけた腰を中途でとめ、まじまじと副長をみつめた。
「まてまて歳、だれが立ち合った?新撰組で理心流を遣うのはそうおおくはないはずだ」
「おそれながら、目録の方が」
おれは、思わず報告していた。満面に笑みが浮かべながら。
局長は、ごつい顔に苦笑を浮かべつつ立ち上がった。同時に、ごつい顔が左右に振られた。
「どうやら誤解を与えてしまったようだ」
「いやまて、かっちゃん。そりゃどういう意味だ?」
「やはり、わたしがやりなおさせていただきたい。総司がいれば・・・」
「おそれながら近藤局長、試衛館の道場主たる局長にわたくしどもごときが手合わせいただくも恐縮でございます。よろしければ沖田殿と。弟は昔、江戸で年少の沖田殿の試合をみ、以降憧れております」
俊冬の申しでに、局長ははっとしたようだ。
局長には双子の力量がわかっているはず。局長自身でも敵わぬというところまで。そして、双子もそれをわかっていることも。
「総司も喜ぶだろう。試衛館の一番の剣士。ぜひとも立ち合ってやっていただきたい」
障子を開け、朝の陽の光をバックにした局長のごつい顔は、泣き笑いに輝いていた。