表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

228/1255

大団円と寂れた屋敷

われら・・・は、務めを果たせなんだ。坂本と中岡を救えなんだ。もうしまいだ。もう、おわったのだ。退けい、俊春としはる


 仙助は、掌をひらめかせる。その視線は、佐々木から副長へとうつる。


「なにをしておる、佐々木殿?もう間もなく、番所から同心が駆けつける。そして、土佐藩も・・・。それとも、狂い犬に喰い殺されたいと申すか?」


 佐々木のがおよぐ。逡巡している。が、たとえ天地がひっくり返ろうと、あるいはどこぞの神が降臨しようと、もはやこの状況でどうにかできることはない。

 ゆえに、佐々木にできることはたった一つしかないはず。


「退くぞ」


 その一言を、見廻組の隊士たちは心まちにしていたのであろう。

 桂が今井を、ちがう一人が失神したままの隊士をそれぞれ抱え、そそくさと去ってゆく。


 坂本と中岡を殺害した犯人ホシは、これで舞台から姿を消した。


 そして、新撰組おれたちもまた、長居は無用。

 裏口から退散する。


 それをみ届けてから、「近江屋」の主が土佐藩邸へとしらせにはしる。


 副長の別宅は使えなくなっているし、かといって屯所に戻るわけにもゆかぬ。しかも、副長の別宅に身を潜めている斎藤は、隠れる場所もなくなってしまった。


 仙助が、というよりかはいまや謎の人物でしかないが、兎に角、自宅を提供してくれるという。

 きっと、妻子がいるというのも偽りにちがいない。


 小六と鳶が、現場に残ってくれる。かれらはたまたま居合わせたといい、番所からやってくる同心や土佐藩邸からやってくる土佐藩士たちの対応をうまくやってくれるであろう。


 仙助の家は、中村、これもまた謎の人物でしかないが、兎に角、中村の家のすぐちかくである。


 家というにはおこがましい。屋敷、である。だが、まるでもう何年も人が住んでいない、そんな退廃的なものが感じられる。

 ここに、一人で住んでいるのであろうか。だとしたら、万が一にも孤独死でもしようものなら悲惨であろう。なかなかみつけてもらえないはずだから。

 孤独死し、発見されるのがおくれればおくれるほど、遺体の状態はどんでもないことになる。

 現代でその後始末を業者に頼めば、かなりの額になる。


 立派な門である。おれたちはそこから入ったが、もちろん、そこに灯火はない。潜戸をつかった。


 門から建物まで、ゆうに10mはありそうである。夜の帳がおりているとはいえ、とくになにかみえるわけではない。たとえば、盆栽とか信楽焼きの狸さん、とか。


 正面に、おおきな母屋がある。そして、左右にひろがる庭には木々が、それぞれ闇のなかにぼーっと浮かび上がっている。


「ポチャン」「バシャッ」と、闇の奥のほうからきこえてくる。それは、静寂のうちにあって、耳に痛いほど響く。


 池でもあるのであろうか。そこに鯉がいて、跳ねているのかもしれない。


 おれたちはその静寂にどっぷりつかったまま、しずしずと脚を運ぶ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ