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握られた小太刀

 見廻組は、旗本の次男や三男坊という子弟がおおい。だが、英才教育を受け、ただ甘やかされて育ったわけではない。そのおおくが、父親や長男とおなじく家を護り、名を護り、幕府を護るという気概のもと、それぞれが得意の分野で研鑽を積み重ね、たいていはそこでそこそこに成長する。そして、それに伴った技量を身につける。


 弱虫でもなければ役立たず、というわけではない。

 げんに、この京でそこそこの業績をあげているのだから。さらには、生き残っているのだから。


 もちろん、それらも新撰組ほどではないが。


 今井は、さすがである。そして、隊内ではライバル関係かなにかはしらぬが、佐々木もさすがである。

 佐々木が中村に話しかけ、注意がそちらに向いたのをみきわめ、今井が動いた。


 今井は両腕を伸ばすと、自分の頸をとっている中村の二の腕をがっしりと掴んだ。体術の心得があるのか、膂力がある。中村の腕を、力任せに握り潰そうとする。

 佐々木も、そのタイミングで動く。左腰から抜いたのは、もちろん得意の小太刀。その動きは、体のおおきさに似合わず俊敏である。すくなくとも、おれのでは追いきれない。

 

 小太刀の間合いは、当然のことながら太刀のそれとはちがう。腕をすこし伸ばせば相手を刺し貫ける間合いが、太刀でいうところの一足一投の間合いとなるのだろうか。


 そしていま、佐々木と中村の間は、まさしくそれである。


 繰りだされたであろう、神速の小太刀・・・。


「柳生・・・。きさま・・・」

 

 店先の音のない空間に、佐々木の歯軋りが耳障りなくらい響く。


「これが、「小太刀日本一」といわれたものか?」


 中村は、小太刀による強烈な突きを、失神した隊士の頸から掌をはなし、そのまま伸ばして受け止め握っている。


 それは、これまでみた無刀取りとはちがっている。掌と掌の間にはさんで、というわけではない。小太刀を握っているのである。いくら峰のほうから覆いかぶせるようにしても、よくぞ指を飛ばされなかったものだ。妙技すぎる。


 驚き以上のものを、感じてしまう。


「わたしの手下てかを殺ったのは、其許の指図か?」


 中村は相貌かおをわずかに佐々木に向け、左の掌で今井の頸をとったまま、右の掌では小太刀を握ったまま、尋ねる。


 そこには、松吉の父親と呼んでいたころの表情などまったくない。面影の一つすら残っていない。


 修羅・・・。


 そんな形容が、ぴったりである。


 佐々木は、歯軋りしながら中村をみおろしている。そこには、尋ねられた言葉の意味を必死に模索しているような様子がうかがえた。それとも、必死にいい訳を考えているのか・・・。


「狂い犬めが・・・。狂い犬めが・・・」


 佐々木は、歯軋りとともにそんな言葉をもらしている。幾度もおなじ文言を、繰り返す。


 狂い犬・・・。


 中村は、その言葉を冷笑とともに受け入れる。


 ぞっとするほどの冷笑とともに・・・。

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