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ザ・ファイナル・ミーティング

「本人は、「近江屋」で寝込んでおります。「近江屋」の周囲には・・・」

「幾人もの密偵が潜んでいやがるか?」


 副長の言に、島田が無言でうなづく。


 副長の別宅での打ち合わせである。


 坂本・中岡暗殺へのカウントダウンがすでにはじまっている。

 これが、最終打ち合わせになるであろう。


「藤堂さんからです」


 目明しの小六は、そういいつつ折りたたんだ紙片をさしだす。


 新撰組われわれは藤堂と接触しづらい。小六が、その藤堂との繋ぎ役になってくれている。以前、藤堂が新撰組にいた時分ころ、原田と一緒に幾度か呑みにいったり博打にいったりしていたらしい。

 副長はそれを受け取ると紙片を開け、それにさっとを通す。


「あいかわらず、字の下手糞なやつだ・・・」


 苦笑まじりの呟きに、永倉と原田が短い笑声をあげる。


「ほう・・・。おねぇが坂本を、「近江屋」のちかくでたまたまみかけたらしい。その脚で、すぐに薩摩に駆け込んだそうだ」

「で、うったってわけか?同門の先輩を?」


 永倉が鼻を鳴らす。


「まっ、おれも他人ひとのことはいえんがな・・・」


 つづけられる呟き。


 副長が、紙片から相貌かおをあげる。


「新八・・・」


 なんともいえぬ副長の表情かお・・・。


 それで、永倉がいわんとしていることに気がついた。

 

 永倉と同門の先輩が粛清されたのは、いまより四年まえのことである。


 芹澤鴨・・・。新撰組の筆頭局長だった男である。


「すまない」


 永倉は、副長の視線を受けはっとしたらしい。だが、その謝罪は、そらぞらしい。


 副長は無言のまま、藤堂からの文を側にある燭台の蝋燭の炎にかざす。


 紙片は、まるで生命いのちの揺らめきのように炎のなかで踊り、やがてなくなる。焦げた臭気が、その存在があったことをしらしめる。


「密偵のなかに、薩摩の息のかかったもんもいるだろうな・・・。小六、鳶、仙助、すまないが、山崎と島田、吉村、斎藤とともに、密偵の出所をたしかめてほしい」


 副長は気をとりなおし、西町東町の目明しと仙助に頼む。三人は、同時ににやりと笑う。


「任せとくんなはれ、副長。それがあっしらの仕事でっから」


 鳶の言に、小六がうなづく。もちろん、仙助も。右の頬の傷跡の下で、不敵な笑みが浮かんでいる。


「中村、追っ払う役は・・・」

 

その副長の言に、つぎは中村がにやりと笑う番である。


「お任せを、副長。同心が幾人か協力してくれます。それが、われらの本業ですので」


 副長がみなまでいうことなく、中村は委細承知する。


「よし、ならば新撰組われわれも本業としゃれこもうじゃねぇか、新八、左之、林、主計」


 副長は、告げるなり身軽に立ち上がる。


「承知」


 もちろん、おれたちもそれにならう。


「あの・・・。ところで、おねぇとは?いったいなんのことでしょう?」


 全員が立ち上がり気合を入れたタイミングで、中村がおずおずと尋ねてくる。


「ああ、おねぇとは・・・」


 説明好きの山崎のまえ振りからはじまったおねぇ解説は、副長が「いいかげんにしやがれっ!」とぶち切れるまでつづいたのであった。

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