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武田を追え

 おれは、もともと協調性が乏しい。

 もちろん、社会人として最低限のものはもっているつもりだ。それでも、それはあくまでも最低限。歓送迎会や忘年会など以外での飲み会や集まりといった類のものですら、できるだけ避けるようにしていた。


 職場では、雑談といったものもできるだけ避けるよう努めた。


 医師の世界と同じく、警察というところも派閥色の強い職場である。ちょっとした雑談で、その争いに巻き込まれることもすくなくない。


 なんだかんだといったが、つまるところ、おれは他人ひとが好きではないのであろう。特定のだれか、というわけではなく人間ひとそのものが、という意味で。


 他人ひととの関わり合いを避けるものだから、その好き嫌いというのもあまりない。

 どちらかといえば好き、という他人ひとはあらわれたとしても、よほどのことがないかぎり嫌いという他人ひとはいない。


 が、おれはこの男を、初対面にもかかわらずだめだと思った。


 嫌い以前に、生理的に受け付けそうにない。


 中間管理職の典型的な性質たち、つまり、部下には必要以上に厳しく、上司には媚びへつらう。パワハラモラハラ、あらゆるハラ系を網羅していそうなタイプ。


 えてしてこういうタイプは、自分自身にもっとも甘い。


 この男は、まさしくそれでもある。


 武田観柳斎たけだかんりゅうさい


 とにかくひいた。そうとうひいてしまった。


 この男のことは、相棒も気に入らなかったらしい。


 相棒だけでなく、訓練を受けた犬というのは無駄吠えや唸ることをしない。指示がないかぎりしない。が、相棒はみじかくちいさい唸り声を発した。


 それほど気に入らなかったのだ。


 そういう意味では、武田はすごいと思う。


 その武田が、隊を脱走したという。


 甲州軍学に精通し、五番組の組長であるかたわらそれを教えていたという。だが、隊士たちの評判はすこぶる悪い。


 みな、おれとおなじことを武田に感じている。


 甲州軍学とやらは、この幕末期にはすっかり廃れていたものらしく、武田はもはや流れに取り残されてしまった。そこにきて、この性格である。


 その夜、副長室に呼ばれたのはおれだけでない。

 山崎と島田も呼ばれた。


「副長、お呼びで?」


 山崎は、町人の格好である。島田のほうは、屋台の蕎麦屋の主人っぽい格好をしている。

 実際、島田の着物から、出汁のいい匂いがきつく漂っている。


「武田がいなくなった。一昨日おとといからのようだ。主計、兼定を使って追えるか?」


 おれは、肇から主計に改名した。字は違うが、元三番組組長の斎藤一さいとうはじめと、かぶるからである。


 いまは、御陵衛士としていっている。じつは、間者として。いずれ戻ってくる。

 改名するにあたり、副長があの夜、おれのことを呼んだその名を使うことにした。


「武田さんの持ち物が残っていれば、追えます」

「山崎、島田、いまの内偵は中断し、主計と連携してくれ。島田、武田に取り巻きがいただろう?」

 問われた島田は一つ頷く。


 こうして座っていても、島田はおおきい。山のようだ。


「加藤という名です」

「そいつから目を離すな」

「承知」


「山崎、武田の部屋からなにか持ってきてくれ。それから主計に付き添ってくれ」

「承知。どういうものがいいか?この前の泰助のときのように手拭のような?」

 さすがは山崎である。衣服や手拭などのような、直接身につけるものが最適であることに気がついたのだ。


 おれが頷くと、山崎は副長に一礼してから部屋をでていく。島田もつづく。


「山崎がいるから滅多なことはねぇと思うが、物騒な連中もおおい。気をつけろ」

「わかりました。みつけたらどうすればいいのです、副長?」

「ああ?そっからはそれ用のやつに任せる。案ずるな」


 ふむ・・・。暗殺か、それとも詰め腹を斬らせるのか?


「よしっ相棒、新撰組ここでの初仕事だ、頼むぞ」


 副長に一礼し、部屋から縁側にでると、相棒はやる気満々の表情かおで、庭で待機していた。



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