表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

197/1255

やるときはやる、残念系イケメン

 説明している間、中岡は口をぽかんと開けてきいている。荒唐無稽としかいいようのない内容である。信じられないか、あるいは正気ではないと思われているか・・・。


 唖然としているのかとをみると、それは意外にもしっかりとした光をたたえている。

 ただたんに、口のしまりが悪いだけなのか・・・。


「にわかには信じられないでしょうし、話以上に新撰組われわれのことが信じられないかと思います。ですが、信じてもらわないと困りますし、あなたに信じてもらえなかったら、新撰組われわれも困るのです」

「慎太さん、お願いやか。協力しとおせ」


 坂本の甥が、絶妙なタイミングで助け船をだしてくれる。


 ぽかんとあいている口が、いったんとざされた。それからまたすぐ、それはあいた。


「わかっちゅう、協力するがで」


 最初、否定されたと勘違いしてしまった。ゆえに、用意していたつぎの球を放るつもりで、すでに振りかぶっていたのである。


「太郎が新撰組と一緒におることは、太郎はそいつらを信じちゅうからぜよね」


 その一言で、はっとする。それからすぐに、振りかぶりかけたフォームを戻す。


 中岡が、いつの間にか土佐弁オンリーに戻っていることに気がついた。


「今の時点じゃー、敵対しちゅうはずの新撰組より、味方やきはずの土佐藩のもんのほうが信じられん」


 中岡のが、おれのそれを射ている。


 そこには、残念系と評したものはなにもない。それどころか、策士としての抜け目のない光が明滅している。

 中岡は、やるときはやる残念系イケメン、なのである。


 子どもらがわっと歓声をあげた。興奮し、ついつい声をあげてしまったようである。

 そちらをみると、峰吉が泰助を転ばしているところだ。

 さすがは元力士に稽古をつけてもらっているだけはある。


「やけど、どうやろーか?龍馬は逃げやーせんよ。あいつなら、そうとわかっちょったがとしたち、ぜったいに逃げることはないがで」

「ええ、何度も忠告しましたが、ことごとく無視されました。だからこそ、あなたの協力が必要なのです、中岡さん」


 中岡は、無言で頷いた。そして、おもむろに掌をのばすと相棒の頭を撫でた。


「相馬は、まっこらぁしこそうやき」


 口中でつぶやく。


「やき慎太さん、相馬はこいとだといったにかぁーらん?へちはか・ね・さ・だ。てんじゃーや、よおお偉いさんたちと話がこたうもんだ」


 すかさず高松が突っ込む。いいおわってから、高松は大きく息を吐きだした。

 

 心中あまりある。かれの仲間たち、つまり海援隊のメンバーは、叔父の坂本を筆頭に個性派ぞろい。突っ込みどころも満載すぎるにちがいない。

 

 ああ、いまさらであるが、海援隊は坂本の会社カンパニー名であり、中岡の陸援隊とを区別する、いわゆる部隊名のようなものである。

 長髪の熱血先生のフォークグループのことではない。正確には、熱血先生が坂本のファンで、海援隊と名付けたのである。


「ほき、あしはどうすればえいかね?」


 中岡が尋ねる。


 また子どもらから歓声がおこった。みると、市村と峰吉ががっぷり四つに組み、地面に書いた円のなかで攻防を繰りひろげている。


「ありがとうございます。ではさっそく・・・」


 中岡に、作戦を話してきかせる。


 木の枝で小鳥たちが、おれたち人間ひとをみおろしている。

 このまえとおなじように。


 小鳥たちはきっと、最近、人間ひとが騒々しすぎるぞ、と思っているにちがいない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ