やるときはやる、残念系イケメン
説明している間、中岡は口をぽかんと開けてきいている。荒唐無稽としかいいようのない内容である。信じられないか、あるいは正気ではないと思われているか・・・。
唖然としているのかと瞳をみると、それは意外にもしっかりとした光をたたえている。
ただたんに、口のしまりが悪いだけなのか・・・。
「にわかには信じられないでしょうし、話以上に新撰組のことが信じられないかと思います。ですが、信じてもらわないと困りますし、あなたに信じてもらえなかったら、新撰組も困るのです」
「慎太さん、お願いやか。協力しとおせ」
坂本の甥が、絶妙なタイミングで助け船をだしてくれる。
ぽかんとあいている口が、いったんとざされた。それからまたすぐ、それはあいた。
「わかっちゅう、協力するがで」
最初、否定されたと勘違いしてしまった。ゆえに、用意していたつぎの球を放るつもりで、すでに振りかぶっていたのである。
「太郎が新撰組と一緒におることは、太郎はそいつらを信じちゅうからぜよね」
その一言で、はっとする。それからすぐに、振りかぶりかけたフォームを戻す。
中岡が、いつの間にか土佐弁オンリーに戻っていることに気がついた。
「今の時点じゃー、敵対しちゅうはずの新撰組より、味方やきはずの土佐藩のもんのほうが信じられん」
中岡の瞳が、おれのそれを射ている。
そこには、残念系と評したものはなにもない。それどころか、策士としての抜け目のない光が明滅している。
中岡は、やるときはやる残念系イケメン、なのである。
子どもらがわっと歓声をあげた。興奮し、ついつい声をあげてしまったようである。
そちらをみると、峰吉が泰助を転ばしているところだ。
さすがは元力士に稽古をつけてもらっているだけはある。
「やけど、どうやろーか?龍馬は逃げやーせんよ。あいつなら、そうとわかっちょったがとしたち、ぜったいに逃げることはないがで」
「ええ、何度も忠告しましたが、ことごとく無視されました。だからこそ、あなたの協力が必要なのです、中岡さん」
中岡は、無言で頷いた。そして、おもむろに掌をのばすと相棒の頭を撫でた。
「相馬は、まっこらぁしこそうやき」
口中でつぶやく。
「やき慎太さん、相馬はこいとだといったにかぁーらん?へちはか・ね・さ・だ。てんじゃーや、よおお偉いさんたちと話がこたうもんだ」
すかさず高松が突っ込む。いいおわってから、高松は大きく息を吐きだした。
心中あまりある。かれの仲間たち、つまり海援隊のメンバーは、叔父の坂本を筆頭に個性派ぞろい。突っ込みどころも満載すぎるにちがいない。
ああ、いまさらであるが、海援隊は坂本の会社名であり、中岡の陸援隊とを区別する、いわゆる部隊名のようなものである。
長髪の熱血先生のフォークグループのことではない。正確には、熱血先生が坂本のファンで、海援隊と名付けたのである。
「ほき、あしはどうすればえいかね?」
中岡が尋ねる。
また子どもらから歓声がおこった。みると、市村と峰吉ががっぷり四つに組み、地面に書いた円のなかで攻防を繰りひろげている。
「ありがとうございます。ではさっそく・・・」
中岡に、作戦を話してきかせる。
木の枝で小鳥たちが、おれたち人間をみおろしている。
このまえとおなじように。
小鳥たちはきっと、最近、人間が騒々しすぎるぞ、と思っているにちがいない。