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見廻組というところ・・・

 沈黙の間、心中でおなじことを考えていたにちがいない。


 廊下をはさんだ庭先へと視線を向ける。相棒がいつもの場所でお座りをし、こちらをみている。


 相棒はがあうと、これみよがしに大欠伸をする。


 またしても時間外労働させてしまった。労基に訴えられてもおかしくない。


 相棒よ、そのときにはどうか副長を訴えてほしい。なぜなら、おれもまた過酷な現場で働く労働者であるからだ。おれも副長につかわれているのである。


「坂本がいなくなりゃ、武器をうれる。大政奉還など、国事の一つにすぎねぇ。薩長はあらためて難癖つけ、幕府こっちがそれにまんまとのせられちまい、はれて開戦にこぎつけようって寸法か・・・」

「おっしゃるとおりです、副長。黒幕説には、グラバーの名もあがってはいます。が・・・」


 その説の信憑性は、かなり薄い。


 別れ際、グラバーから坂本宛に伝言を頼まれた。あれは、伝言を装う忠告だ。


 長崎に逃れてこい・・・。グラバーは、そういいたかったのだ。


 最初に坂本をしらないといったのは、しらばっくれたのではなく、おれたちを警戒していたからだ。だが、おれたちが坂本の敵ではないと判断したのであろう。


 グラバー自身の意思とは関係なく、坂本に危機が迫っている。かれは、それを告げたかったのである。


「それにしても、見廻組れんちゅうは、大坂でいったいなにをやってやがったんだ?」


 副長にきかれ、思考を中断する。


「グラバーからきいたことと、仙助さんと鳶さんが花街で仕入れてきた情報によりますと、今井さんたちは、再三そこで打ち合わせをしているようです」

「わざわざ大坂で?ご苦労なこったな・・・。土佐と見廻組か・・・」

「大坂の花街で会っていたのは、土佐藩に紀州藩、そして、見廻組だそうです」


 山崎が、副長の後を引き継ぐ。


「紀州藩もまた、坂本の船と衝突した海難事故の訴訟問題にからめ、それを金子で取らせようと紀州藩に法外な額を要求しているところなのです。が、紀州藩は、その件で頭を抱えています。ゆえに、紀州藩もまた、坂本にいてもらって困ることはたしかです」

「まったく・・・。坂本あいつは、いったいどんだけの人数に恨まれてるんだ、ええ?いったいどんだけの人数に死んでもらいたいって思われてるんだ?それを考えりゃ、新撰組おれたちなど、かわいいもんだ」


 副長のいうとおりである。山崎とともに、苦笑する。


「で、岩崎は?岩崎も今井も岩倉の屋敷にいたんだろう?」

「岩崎、あるいは、土佐だけならわからんでもないですが、そこに今井や見廻組がかかわっているのが解せませんね」


 山崎は、こぶりの相貌かおを右に左に傾ける。


 幕府直轄の見廻組が、薩長と結託している岩倉とひそかに会っている。これは、幕府こちら側からすれば、裏切りといっても過言ではない。


「なんでもてめぇ自身でやりたがる佐々木のやろうが、今井をつかうってことも解せんがな・・・」

「え?副長、それはどういう意味なんです?」


 副長の呟きに、はっとする。


「ああ?見廻組やつらは、どいつもこいつも無駄に矜持が強くてな。それぞれが、それぞれを蹴落としたり貶めたり、あるいは目立ちたがったり、いつもそんなことばっかり考えてやがる。佐々木がその筆頭ってわけだ。いくら裏切り行為とはいえ、お偉い公卿様や土佐藩と接触するのに、佐々やつがほかのやつに任せるとは・・・」


 副長は、そこまでいって気がついたらしい。


 見廻組は、いい意味でもわるい意味でも、それから、いいことでもわるいことでも、兎に角、自分の名や家名を上げる為、周囲をだしぬくのに必死なのである。

 あくまでも、見廻組という集団ではなく、個人プレイというわけなのだ。


 今井はなにかしらの企みに加担しており、それを秘して佐々木と見廻組を動かしている。いや、それとはべつに、佐々木のほうでもなにかの密命を受けているのかも・・・。すくなくとも、幕府、もしくは会津藩の説をとるとしたらそうなる。そうなれば、今井個人にとっても渡りに舟なわけだ。

 それを佐々木がしらないだけ、というわけか・・・。


「佐々木の預かりしらぬところで、つまり、今井は個人で動いてるってわけか・・・?」


 副長の推測である。


 山崎とがあう。その推測が推測ではなく、ほぼ間違いないことを確かめあう。

 

 謎は、すこしずつ解けつつある・・・。


 そう実感する。

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