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茶の好みと報告

 副長は山崎の報告を受け、眉間の皺を濃くする。


見廻組れんちゅうが大坂に?いったい、なにしてやがるんだ?」

「おそらく、土佐藩と、いえ、もしかすると土佐の岩崎という商人と結託しているのかもしれません」

「根拠は?」


 副長に真正面から斬りこまれ、両肩をすくめてしまう。


 副長の部屋である。


 斎藤は、屯所に戻ってこれない。ゆえに、副長の別宅で別れた。仙助と鳶は、それぞれの家に戻っていった。


 頭のなかを整理しきれていない。が、いってしまったことを、いまさら撤回することもできない。


 膝のまえに置かれた茶を、ひとまずすすって時間稼ぎする。


 う・・・。なんて苦いんだ・・・。


 副長ばりに、眉間に皺を寄せる。

 

 その間をもてあましたのか、副長と山崎も茶をすする。


「うっ」


 山崎がおれの横で、ちいさなうめき声を上げる。おれと同様に、眉間に皺がよっている。


 副長に視線()をむける。副長のトレードマークも、しっかりと茶の濃さ加減を主張している。


「うすいっ、しかもぬるい!鉄のやろう、あれだけうすいしぬるいといってるってのに、一つもきいちゃいねぇ・・・」


 そして、つぶやく。


 先日こさえた擦り傷は、だいぶんと癒えている。


 副長の茶の好みは兎も角、また口をひらく。


「グラバーは、坂本を介して薩摩や長州、それから、土佐と商いをしています」

「武器だな?」


 さすがは副長である。無言でうなづく。


「きたるべき幕府との一戦を控え、薩摩も長州も準備に余念がなかった。しこたま武器を買い込んだか、あるいは注文をしたでしょう。土佐も、坂本に説得された後藤が、鯨海酔候に大政奉還を進言させなければ、さきの二藩と同様買いこんだはずです・・・」


 告げながら、頭のなかを整理していく。


「いまとなっては、宝のもち腐れだな」


 山崎が言葉に、うなづいてみせる。


「じつは、グラバーはある組織の一員だといわれています」

「組織?」


 副長と山崎がかぶる。


「フリーメイソンという、異国の組織です」


 フリーメイソンについて、この時代の日本人に話をしてもちんぷんかんぷんであろう。ゆえに、囁かれている都市伝説的な噂だけ伝えることにする。


「日の本でいうところの藩主や公卿など、身分の高い人たちが集う会のようなものです。そこでは、表立っては慈善活動や働く人たちの為の運動などをしていますが、裏ではいろんな国の権力者を操ったり、あるいはつぶしたりします。それらはたいてい、武力をもっておこなわれる、というわけです」

 

 副長と山崎が、たがいに相貌かおをみ合わせる。


 こんな話は、坂本の船中八策と同レベルの超絶突拍子もないものにちがいない。


「武器をうって荒稼ぎしたり、というわけか?」

「なるほど。いたるところで戦が起これば、ずいぶんと儲かり、その組織が潤うわけだな」


 副長も山崎も聡すぎる。正直、脱帽せざるをえない。


「坂本が、戦をなくした。が、いまでもまだ、火種はいたるところにくすぶってる。いまならまだ、その火種を熾しさえすりゃぁ、あっという間に大火事になる」


 副長は胸のまえで腕を組み、つぶやく。


 頭のなかで、さまざまな推測をたてながら。


 それから、自分の推測に、身震いする。

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