表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

188/1255

入会の条件と方法と規約

 いま一つ、確かめたいことがある。ゆえに、グラバーのまえから辞すときに、さも思いついたかのように尋ねてみた。


『ミスター・グラバー、あなたの属する組織に、わたしも加わることはできますか?会員になるには、なにか制約や条件があるんでしょうか?』


 その瞬間、相棒を撫でていたグラバーの掌が止まった。刹那以下である。

 それを、見逃さなかい。


『ぜひとも、口添えしていただけませんか、リョウマ・サカモトのときのように・・・』


 このときには、さすがに掌がとまることはなかった。だが、膝を折った姿勢で相棒の頭を撫でつづけているグラバーの背が、わずかに揺らいだ。それは、坂本の名をいったタイミングであった。


組織カンパニー?わが社に入社されたいと?』


 グラバーは、立ち上がると体をこちらへ向けた。着物の裾についた土を手早く掌で払うあたりは、着物にずいぶんと慣れ親しんでいるからこそ、できる仕種であろう。

 

 ふっと、冷笑を浮かべてみせる。すくなくとも、そうみえるようにがんばった。


会社カンパニーではありませんよ、ミスター・グラバー。組織オーガナイゼイションといったつもりでしたが、それとも、おれの単語ワードは間違っていますか?』


 そして、力でいってやる。


(あんたがそこに属していることを、おれはしっているんだぞ)


組織オーガナイゼイション?きみのいうことがよくわかないが・・・。それに、リョーマ?なんたら、という男のこともしらないな』


 グラバーは、おおげさに肩をすくめる。この密会はおしまいだというかのように、下駄を脱いで縁側にあがる。それから、上半身をかがめると踏み石の上の下駄をきれいに揃える。


『おかしいですね・・・。紹介状はミスター・ミノムラに書いてもらいましたが、それは、ミスター・サカモトに会えなかったからです。もともと、あなたのことはミスター・サカモトにきいたのですよ』


 グラバーは、下駄から顔をあげる。おれとがあう。その蒼いによぎったなにかが、おれの精神こころをざわめかせる。


『ああ、あのリョーマのことか・・・。きみのいっていることはわからないが、ぜひともリョーマを探しだし、伝えてもらいたい。また長崎で会おう、と。そのときには、お望みの船を用意しよう。それで、だれもしらない、どこか遠くへいけばいい、と。』


 おれのをみつめたまま、グラバーはささやく。

 

 そのタイミングで、家屋の奥からグラバーのことを呼ぶ声がきこえた。男の声だ。きき覚えがある。


 岩崎・・・。間違いない。相棒をみると、相棒も一度嗅いだことのあるにおいを察知し、声のほうに警戒のを向けている。


『リョーマに伝えてくれたまえ』


 押し殺したその声で、視線をグラバーへと戻す。


 だが、グラバーはすでに廊下に面した部屋のなかへ消えていた。


 歴史的に有名な、異国の商売人との駆け引きはおわった。


 おれたちのミッションに直接結びつくかどうかは、いまのところわからない。が、この情報ネタが有益なものだと、すくなくとも、密会したことが無駄ではなかったことを確信する。


『旦那方・・・』


 料亭旅館がみえる路地で、最後のやりとりを反芻する。山崎も斎藤も、おれの様子を察し、そっとしてくれている。


 そこに、鳶と仙吉が戻ってきた。

 路地にひそんで一時間ちかくは経っている。


「新地にいる馴染みの芸妓から、面白い話をきいてきましたで」


 仙吉がいった。さほど広くもない大坂の花街である。芸妓らも噂話で日ごろのうさを晴らしたり、情報交換をしあうのであろう。


「京からえらそぶった武士さむらいらがしょっちゅうやってきては、土佐や紀州の武士さむらいらと話をしているらしいですわ。しかも、ある男のことばっかりいうてるらしい」


 仙吉は、四本しかない掌を自分の頸の辺りでひらひらさせる。鳶がその隣で、神妙な表情かおでうなずいている。


 一つ頷いてから、全員にグラバーとの会話を語ってきかせた。


 重点的に、死んだ天神にまつわる部分を・・・。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ