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「豊玉宗匠」とのひととき

 局長・副長付きの小姓たちのまとめ役である、野村利三郎の手伝い兼監察方の手伝いをすることとなった。


 おれのことは、平隊士たちには長州征討軍の元軍人として伝えられた。


 そして、局長や組長、山崎や野村などには、おれに関する誠の情報が伝えられた。


 意外にも、だれもおれのことを奇異なでみることはなく、それどころか相棒ともどもあたたかく迎え入れてくれた。


 副長がいまの新撰組の状況を教えてくれた。


「ああ、やはりその位の時期でしたか・・・」


 推測は、あたっていた。


 ついそういってしまうと、副長は驚いたようだ。


「なんだと?っていうこたぁ、おめぇはすべてをしってるわけだよな?」

「ええ、まぁ・・・」


 いい澱んでしまう。


「おれだけでなく、新撰組をしらない人はいませんよ。有名ですから」

「そうか・・・」


 副長の男前の顔に、苦笑が浮かぶ。


「餓狼のごとき人斬り集団ってな具合に、有名なのであろう?いまがそうだからな・・・。いまの評価が、将来さきになっていいようにかわるわけはねぇ。まっ、おれたちのような半端もんの集まりには、箔がついてちょうどいいんだろうよ」


 返す言葉がない。


 まさしく、その通りだから。


 だが、新撰組にも理解者はいた。


 生き残った永倉や、理解者の一人である蘭方医の松本法眼まつもとほうげんなどの働きかけや著書で、荒くれ者の集まりだけの評価で結論付けられているわけではない。


 それぞれの立場、状況でそうならざるを得なかっただけである。


「勝てば官軍、負ければ賊軍」


 幕府が勝っていたり、なんらかの理由で新撰組が薩長に与したのであれば、後世の評価もずいぶんとかわっただろう。

 

 入隊してからというもの、このようにして毎夜のように尊敬する男とわずかな時間ときでも話をし、さまざまなことを共有した。


 だが、なにゆえか副長が自分から将来のことを尋ねることはない。推測はしても、それがあたっているのか、あるいはどうなるのかといった類のことを、おれに話させるようなことはほとんどない。


 副長は、まだなにかを隠している。


 もしかすると、将来さきをしっていて、きく必要がないのか・・・。


「副長」

 入隊してから、当然のことながらかれをそう呼ぶ。


「血生臭い斬った張っただけでなく、こんなこともしっていますよ」


 笑いながら告げる。


 副長室である。


 局長は妾宅にかえるが、副長は屯所で生活をしている。

 副長名義の家屋をべつにもってはいるが、そこは副長自身の息のかかった者たちとの繋ぎの場として使っているらしい。


 おれは客間から移り、野村と相部屋である。


 副長は、小姓の市村が淹れた茶をすする。


「薄い」

 眉間に皺が刻まれる。


 市村も大変だ、とつくづく思う。


「「梅の花、一輪咲いても梅は梅」」


 ある意味有名なその一句を諳んじると、副長はすすったばかりの茶を口のなかから盛大にふきだす。

 それから、激しく咳き込んだ。


「大丈夫ですか、副長?」


 内心おかしくてしかたない。

 あの襲撃の夜より、激しく動揺しているからである。


「くーん」

 開け放たれた障子の向こう、庭でお座りしている相棒が、頭を傾げている。


「馬鹿なっ!」


 おれが新撰組の最大級の秘事を声高に暴きたてたかのように、副長は怒鳴る。


「まさか、それもおまえ以外のおおくのもんがしっているというのかっ?」


 沈着冷静な「鬼の副長」も、このときばかりはヒステリックな中年男と化す。


「それどころか、資料館というこの当時のものを飾っている場所でみることができますよ。副長、あなたの句は、ある意味では松尾芭蕉のそれらより有名です。しかも、口うるさい批評家ですら、なんの感想も抱かせないだけの感覚をおもちだ」


 笑いながらいったことで、おれが戯れたとわかったのであろう。

 いや、違う。どうやら、真逆にとってしまったようだ。


「そうか・・・。おれのはそんなにまずいのか・・・」


 泣く子も黙る「鬼の副長」の肩が落ちる。


 後悔してしまう。


 句作のことで、戯れるのはよそう。

 それについては、できるだけ明るく前向きにヨイショしよう、と決意する。


 以前の上司だった刑事長でかちょうには感じなかったものを、副長に感じる。


 それが具体的になにか、という説明はつきそうにない。



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