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海援隊隊士

 沢村惣之丞さわむらそうのじょうは、土佐で浪人の子としてうまれ、武市半平太率いる土佐勤皇党に参加、脱藩した。坂本と合流した後は、勝海舟に師事し、海援隊の隊士となった。

 

 陸奥陽之助むつようのすけは、紀州の産である。幕末には海援隊の隊士として坂本とともに活躍し、明治には政治家として活動し、「カミソリ大臣」と異名をとるほどの辣腕家となる。

 

 坂本直さかもとなおは、坂本の長姉の子である。幕末期には、高松太郎たかまつたろうと名乗る。かれは、土佐勤皇党に参加するも、弾圧にあった際に脱藩、叔父の坂本と合流し、やはり海援隊の隊士となった。子のなかった坂本の家督を継ぐ。明治期にはクリスチャンに帰依し、坂本の法要には今井を招いた。当時、今井も暗殺犯の一人として名が挙がっていたはずであるが、それを呼ぶとはずいぶんと寛容な人物だったのであろう。

「罪を憎んで人を憎まず」、であろうか・・・。


 三人が、飯屋からでてきた。

 その後を、尾行ける。


 やはり、坂本はこの時分ころすでに、「近江屋」に移っていた。


 三人は、なにかの話で盛り上がっているらしい。ときおり、笑い声や機嫌のいい声が流れてくる。

 まだ宵の口であるが、通りに人通りはまばらである。


 すでにこの辺りのことは、確認済みである。そして、三人が「近江屋」に戻る道筋も。


 浪人らしき男が二人、向こうからゆったりとした歩調であゆんでくるのが、三人の体越しにみえる。


 予定通りである。同行者と視線を合わせる。それから、民家の路地へと入る。

 

 今回の作戦には、内偵先の御陵衛士を引き上げ、雲隠れしている斎藤も参加することになった。自由のきく斎藤は、さわやかな笑みを浮かべていう。「副長の命に、よろこんで従うよ。なんなら、見廻組全員、いますぐ消してきてもいい。暗殺の腕前なら、わたしのほうが上だから」、と・・・。


 たしかに、その通りなのであろう。たしかに・・・。


「な、な、なんだ?新撰組が、おれたちをどうするつもりだ?」

「斬る気か?」


 三人が、路地に連れてこられた。


 一番背の高い男は、相当な洒落者らしい。総髪は、油かなにかでしっかりとまとまっており、相貌かおの髭もしっかりとあたっている。着物も袴もきれいで高価そうである。だが、相当な臆病者であるらしい。ずいぶんとうろたえている。


 これが、明治期には「カミソリ大臣」と異名をとり、伊藤内閣で外相として活躍することになる陸奥にちがいない。


 三人のなかで一番小柄な男は、その体格に似合わずずいぶんと豪胆である。いまも、「斬るなら斬ってみろ」的な、不敵な笑みと態度である。じつに堂々としている。総髪で、顎の辺りがうっすらと無精髭に覆われている。すこし鼠っぽい顔立ちである。沢村、である。


 最後の一人は、さすがは坂本の血筋、というほど坂本を思わせる容姿である。本人もそれを意識しているのか、総髪は長めに伸ばし、それを無造作に放置している。顔立ちや体格は、どことなく似ている。若いときの坂本を、一回りちいさくしたといっていいかもしれない。これが、坂本の甥っ子である。


「案ずるな。斬る気なら、通りですれ違いざまに斬っていた」


 三人を路地へと追い込んだ一人である斎藤は、物騒なことをさわやかな笑みとともに告げる。そのさわやかな笑みを横目に、追い込んだもう一人が口を開く。


「斎藤がその気なら、きみらはとっくの昔に通りに転がっていた。頸と胴が離れた状態でな・・・。まだ生きているということは、われわれにきみらをどうこうしようという気がない、ということだ」

「安心させておいて、ばっさり斬るのではないのか?」


 陸奥は、鼻で笑いながらいう。そういいつつ、明晰な頭脳で、この状況を把握しようとしているのがわかる。


「きみらを?四対三だし、われわれの剣の腕前は、いまやこの京で有名だと思うがね。それを、わざわざ油断させる手間隙をかけるとでも?」


 山崎はいったん言葉をきり、三人を順番にみてからつづける。


「さて、きみらにもわれわれにもときがない。そうであろう?さっさとおわらせよう。陸奥君、沢村君、高松君、だね?わたしは、新撰組の監察方の山崎。こちらは、三番組組長の斎藤。そちらのおおきいほうは、監察方の島田。を連れているのは、隊士の相馬だ」


 陸奥は、新撰組の錚々たる・・・・メンバーよりも、相棒のことが怖ろしいらしい。長躯が飛びはねる。


 その一方で、沢村と甥っ子はまじまじと相棒をみつめ、ほぼ同時ににんまりと笑みを浮かべた。よくみると、甥っ子は子どもっぽい顔立ちをしている。


「嘘ぜよね?龍馬おじからききゆう。独逸ドイツの犬ぜよ。まっこらぁわいい犬ぜよ、と。やき、あしもみたいと思っちゅう」


 しっかりとした声音である。うれしそうにはずんでもいる。甥っ子は、止めようとする陸奥を無視して両膝を折り、お座りしている相棒と視線を合わせた。


「えいかね?」


 許可を求めるその表情かおは、まさしく坂本のそれである。もちろん、笑ってうなづく。


 それにしても、幕末ここには、相棒をかわいいといってくれる人が何人もいる。そこにも驚いてしまう。


 沢村もまた、坂本から話をきいているのだろう。高松とおなじように、相棒の頭やら背を撫でてくれた。



「さて、これですこしは警戒心をといてくれたかな、陸奥君?」


 山崎が、ふたたび口を開く。


「これがばれれば、幕府うえはいい相貌かおをせぬ。だが、わたしたちは、わたしたちなりの正義を貫きたい。それが、わたしたちのボスの意向でね」


 ボス・・・。それは、山崎に教えた言葉の一つである。


「わたしたちのボスは、わけあってきみらのボスを助けたいらしい・・・」


 山崎の告白に、陸奥も沢村も甥っ子も、はっとした表情かおで山崎をみる。


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