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不敵な新企画

「面白くねぇっ!ぜったいに面白くねぇっ!土方さん、いいのか?見廻組やつらに好き勝手させちまって?」


 永倉は、左の掌に右の拳を打ち付けつつ吠える。


 そういえば、かれは黒谷あいづで、見廻組の佐々木のことをいっていた。


「なにかと馬鹿にしやがって。おれたちのほうが、よほど斬ったはったで成果を挙げてるってのによ。なにが幕臣だ。なにが旗本の子弟だ」


 よほどなにかをいわれたり、されたりしているのであろうか。永倉の罵倒に、原田、山崎、島田の三人が無言でうんうんとうなづいている。


「ああ?新八、わかっていて、おれが連中に好き勝手させるとでも?」


 火鉢の向こうに、「鬼の副長」の不敵な笑みが揺らめく。


 おれも含め、その笑みを頼もしく思い、注目する。

 さすがは副長である。うられた喧嘩はしっかりと買い、その上で倍にもそのまた倍にもして返すわけだ。


「だし抜いてやる。やつらに一泡吹かせてやろうじゃねぇか、ええ?」


 副長は、火鉢に上半身をよせ、声をさらに落とす。おれたちもまた、さらに膝をよせ、たがいの相貌かおがくっつきそうなほどちかづける。


「主計、おめぇ、坂本あいつを死なせたくねぇんだろう?」


 副長のが、ふたたびおれのそれを射る。

 尋ねたわけではない。確認である。ゆえに、素直に頷く。

 

 心から死なせたくない、と願っているのだから・・・。たとえ歴史がかわってしまおうと・・・。


 殺される日にち、場所、方法、実行犯、あらゆる情報があるにもかかわらず、それを無視するのは、元刑事でかとしての正義感や義務感以前に、人間ひととしての精神こころの問題である。

 

 坂本は、自分が殺されることをしっている。剣術の試合後に告げたからだ。だが、坂本はそれを受け入れるつもりでいる。信じていないわけではない。あきらめているわけでもない。


 かれはかれなりに、それが天命だと思っているのかもしれない。

 

 差別の厳しい土佐で、坂本をはじめとした郷士たちは、ずっとずっと戦いつづた。そして、坂本自身の幼馴染の武市半平太や岡田以蔵をはじめ、おおくの仲間が散った。

 だが、坂本のは、身分差別の激しい土佐だけをみているわけではない。日本すべてを、さらには、世界をみている。

 

 大政奉還をはじめとした「船中八策」が成文化され、注目されつつあるいま、「やるべきことはやりおえた。仲間たちのところへ逝ってもいい」とでも考えているのであろうか・・・。


 いや、かれには夢がある。黒谷あいづで語ってくれた夢は、かれ自身の誠、偽りのないものにちがいない。なぜなら、あのときの坂本のは、けっして死を受け入れた者のではなかった。あれには、希望と未来の光が宿っていた・・・。


「おねぇにも証言させりゃぁいい。いくらでも好きなようにな。どうせ、落とし前はきっちりつけさせてもらうんだ」

「ははは!結局、おれの鞘が、おねぇにとっちゃぁ引導になるわけだな、土方さん?」


 副長と原田のやり取りで、坂本から意識を引き戻される。


「副長、すでに策はおもちのようですが?」


 副長の真似をして、おれも不敵な笑みを浮かべる。それから、質問ではなく確認する。


「当然だ。おめぇら、これから忙しくなるぞ。覚悟しとけ」


 そう、これは組織としての任務ではない。あくまでも副長の私用、なのである。


 あらたなプロジェクトの始動だ。

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