お説教 副長のお部屋編
副長は、どうしてこんなに叱れるのだろう。いや、厳密には、よくネタがつきないな、と心底感心してしまう。
副長のまえに並んで座し、おれたちはずっと、ずーっと、永遠にもつづきそうな小言を辛抱強くきいている。いや、おれはそれをBGMに、物思いに耽っている。
耳を傾ける、というレベルは、最初の廊下ですぎてしまっている。そして、副長の小言は、永倉と原田の試衛館時代のネタにまで及ぶ。
それは、web上でもみることのできない、ということは、当人たちにしかわからないエピソードの数々ってわけで・・・。
それに思いいたり、副長の話へと意識を戻す。
新撰組のファンは大勢いる。歴史ファン、幕末ファンはのみならず、乙ゲーの流行で若い女の子たちにも人気である。小説やドラマ、映画、と題材にされることもおおい。農民が武士になったり、鬼の掟があったり、病気やら裏切りやらBLやらがあり、もちろん、メインのアクションも事欠かない。しかもイケメンがおおい。人数的にもちょうどいい。おおすぎず、すくなすぎず。これだけドラマ性に溢れたグループは、歴史上そうそうないであろう。老若男女、ファンがおおいのも当然のこと。
いまここにいるすべての人たちに、未来の新撰組人気を知らしめてやりたい。そう切に願うのは、土方歳三に惚れこんでいるおれならば、当然のことであろう。ああ、もちろん、惚れこんでいるというのは、BL系の意味ではなく、男気に、という意味である。
そういったファンを超越した、いわゆる、オタクですらしりえぬエピソードの数々・・・。
畳に視線を落としたまま、それらをきいていた。優越感に身を委ねながら・・・。お得感満載だと調子にのりながら・・・。
「ありゃおれじゃねぇ」
「おうとも、おれでもねぇぞ、土方さん」
永倉と原田が怒鳴る。
「かっちゃんの祝言用の酒を、おめぇら以外、いったいだれがかっぱらって呑んじまうってんだ、ええっ?」
「おいおい土方さん、その前日は、おれと左之はご祝儀をどうにかする為に、実家やら知り合いやらを訪れては金策しまくってた。あの日は、宇八郎のとこに泊めてもらった。土方さん、あんたも宇八郎のことは知ってるだろう?」
永倉のいう宇八郎は、市川宇八郎である。永倉とおなじ松前藩の子弟で、剣術も同門の幼馴染のような関係であることを、ウイキペディアでみてしっている。
「ああ、三人で吉原にいったが、金子が足りなくて真っ裸にされた上に店から放りだされ・・・」
原田が掘った。掘りまくった。その墓穴に、副長の眉間に濃く深く皺が刻まれる。
「てめぇら・・・」
おおこわっ!いままさしく雷鳴が轟きそうになったタイミングで、障子に人影がうつり、控えめな声がきこえてきた。
「山崎に島田か・・・。入れ、待っていた」
音もなく障子が開き、二人が入ってくる。
「そろったな。本題に入る」
厳かに告げる副長。そして、それをフツーに受け止める永倉と原田。
なんと、さきほどまでのやりとりは、いったいなんだったのか?前フリ?そんなわけはない。ならば、ただの暇潰し?それとも、職場内の貴重なコミュニケーションタイム?
さすがは「副長とゆかいな仲間たち」である。
餓鬼の頃に観た、「吉O新喜劇」と「ムツOロウとゆかいな仲間たち」が、懐かしい。