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発動!「兼定を洗おうプロジェクト」

「兼定を洗おうプロジェクト」である。


 錚々たるメンバーである。


 まずは、実行部隊。これは、実際に相棒を取り押さえ、洗う精鋭部隊。

 局長、永倉、島田、吉村、林、そして、おれ。全員、襷がけに尻端折り、というとんでもない恰好である。


 陽動部隊。相棒の気をそらすのが役目である。原田、山崎、市村、玉置、田村、泰助。原田の掌には、松吉の祖母と母親特製の沢庵が握られている。


 残りの子どもたちと、今日が非番の二番組と十番組の隊士たちが、万が一にも逃げだした相棒を取り押さえる援護部隊として控えてくれている。


「いっておきますが、相棒はシャンプー、もとい、風呂が嫌いです。察知したら不機嫌になりますし、逃げだすでしょう」


 局長をはじめとする新撰組の大人と子どもらのまえで、厳かに告げる。


「ふだんは冷静で忠実ですが、このときだけは犬がちがったようになります」

「まさか、かみつきやしないだろうな?」


 永倉が尋ねる。その隣で、吉村が「指だら喰いぢぎられるなはん」となにかいったが、当然のことながらトランスレイトできない。


「それは・・・、ないかと・・・」

「おいまてっ、主計!なんだいまの間は?ええっ?妙な間があったぞ」


 永倉が気色ばむ。


「いやですね、永倉先生。「がむしん」でしょう?心頭滅却すれば、というやつですよ」


 にやりと笑う。いつもぼこぼこにやられているのである。永倉のびびりにつけこみたいと思うのは、人間ひととして当然の心理ではないのか?


 もっとも、びびらせているのはおれでなく、相棒、であるが。


「血がいっぱいづぐがもしれねぁー」


 吉村が、またなにかいう。

 耳の遠いお年寄りがよくやるように、曖昧な笑みを吉村に浮かべてみせる。


「ご心配なく。おれはかまれたことはありません。ただ、どこまででも駆けて逃げられてしまい、追いかけるのに往生しただけです」

「おいっおめぇら、わかってるな?血刀振りかざしてむかってくる志士どもより、よほど・・・可愛らし・・・い、はずだ。体躯からだはって、ぜったい逃がすんじゃねぇぞっ」


 原田の微妙な間を伴った指示に、二番組と十番組の隊士たちはけなげに頷き了承する。子どもたちも同様である。


「近藤さん、あんた、無理せず采配したらどうだ?」

「馬鹿なことを申すな、新・・・、永倉先生。わたしを隠居扱いするのか?」

「そういうわけじゃねぇが、あんたになにかあったら、新撰組おれたちはどうなる?」

「兼定を洗うのに、なにがあると申すか?」

「ぎっくり腰、とかよ・・・」


 永倉の口中のつぶやきは、局長の耳には届かなかったようだ。が、すぐ隣にいるおれは、はっきりときこえた。


 先日の黒谷あいづとの剣術試合では、みごとな剣術を披露してくれた局長だが、剣術の動きとはまったく異種のものである。永倉の心配は、まったくの見当ちがいではない。


 しかし、やる気まんまんの局長に、「やめてくれ」といえるわけもない。ここは、局長になるべく動いてもらわぬよう、おれたちでうまく動くしかない。


「相棒を連れてきます。みなさん、頼みますよ」


 市村と泰助を連れ、相棒の仮の宿舎である物置へと向かう。ハンドリングの練習に向かうかのようなていを装おうというわけである。


 だが、それは無残にも打ち砕かれる。相棒は、動物的勘で察知していたのである。


 物置の奥の陽の光の届かぬ暗がりで体を沈め、戦闘態勢に入っている。

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