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ヒ・ミ・ツのプロジェクト

 米糠は、肌をしっとりさせる。そして、肌の汚れをとってくれる。それは、石鹸やボディーソープなどより、よほど体にいいし、安上がりである。

 あくまでも、人間にとっては、である。

 はたして、全身毛だらけの生き物に米糠の効果があるのかどうか・・・。


 この日、一大プロジェクトを企画した。だが、それは一人で完遂できるものではない。事前に協力者を募ることにした。


「月見蕎麦、二杯。あ、やっぱり、月見蕎麦一杯ときつねうどん一杯」


 市村である。応じてくれたのはよかったが、ただで動かぬのが新撰組うちのキッズたち。


「かけ蕎麦三杯」

「かけ蕎麦一杯ときつねうどん一杯」


 キッズたちは、口々に叫ぶ。


 かれらの成長ぶりは、日々顕著である。食べる量もどんどん増えていっている。

 天麩羅うどんや天麩羅蕎麦がなくてよかった・・・。それでも、この時代ころ、うどんも蕎麦も一杯が十五、六文。一文が二十円くらいだから、三百円をこえる。駅の立ち喰い蕎麦とおなじくらいだ。それを一人二杯として、全部で・・・。


 ううっ・・・。またしてもおれの給料が・・・。


「おうっ、櫛と手拭は任せとけ。おまさが使ってないもんがあるかもしれない・・・。そうだな、陽動くらいなら手伝ってやるぜ、主計。土方さんが、思いだしたように例の刀の鞘のことをいってきた。おめぇから諦めるよう、土方さんにいってくれ」


 これは、原田である。


「いえ、原田さん。その刀の鞘、ですよ・・・。このまま放っておいても、でてくることはでてくるんです」


 長身の原田を、上目遣いでみる。

 帰宅しようと屯所の門をくぐろうとしたところを、呼びとめたのである。


「なんだって?ならいいな・・・」


 原田は、いさぎよく諦める。


「いいことありませんよ。じつは、あなたの鞘はとんでもないことになるのですから・・・。兎に角、副長もまじえ、一度話し合いましょう」

「ちっ、面倒だな、まったく・・・」


 原田は、自業自得という仏教用語をしらないらしい。


「任せとけ、主計。わたしがしっかりおさえこんでみせる」


 永倉に頼んだつもりが、その補佐ともいうべき島田が爽やかな笑みとともにいってくれた。しかも、二の腕の瘤までみせてくれて。巨躯の島田である。心強い。しかも、なにも要求してこない。


「その後に、汁粉を馳走しよう。体躯が冷え切るであろうからな」


「え?」


 思わず、口のそとに漏らしてしまう。


「すまねぇな、主計。手伝いたいが持病の癪が・・・」

「組長が音頭を取らずしてなんとしますか?」


 永倉の嘘まるだしのいいい訳にかぶせ、島田は大きな掌で永倉の肩をばしばしと叩く。永倉の眉間に、副長ばりの皺がよる。

 このプロジェクトに、組長の肩書きなど必要ない。できるだけ、力自慢がほしいだけである。


「どうせです。吉村先生や山崎先生も誘いましょう。この寒さだ、汁粉が心身をあたためてくれますよ」


 永倉と視線があう。

 本筋からずいぶんとかけ離れてしまっている。しかも、かなり危機的状況、悪い方向へと・・・。


「では、準備にとりかかりましょうかね」


 島田は、上機嫌かつおおはりきりのていで、厨のある方角へと去っていく。


「なぁ主計?」


 永倉は、おおきな背をみ送りながら気弱な笑みとともにいう。


「おまえのお蔭で、また平助と馬鹿やれるって喜んでるが、おれや左之のほうがくたばっちまうなんてな・・・」

「すみません。おれがお願いしなければ、こんなことには・・・」

「気にするな。なんやかんや理由をつけては、結局、振る舞いたがるんだ。そうだな、土方さんに頼んで、局中法度に「一、甘いもの喰うべからず」とでも追加してもらうべきだな」

「だったら、「一、酒をすぐるべからず」も追加されますよ、きっと」


 気弱な笑みとともに応じる。


 明日、プロジェクトは発動する、予定である。

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