暗殺の真相パート2・・・
従業員用の控え室みたいなちいさな部屋である。「角屋」の使用人が、寝泊りしているのかもしれない。
六畳ほどのちいさな部屋。ここには、窓も調度品もない。燭台すら・・・。
畳の上に、店の小者に渡された蝋燭を置いている。ちいさな受け皿の上に置かれたずいぶんとちびた蝋燭は、いつその炎を絶やすかわからない。
ちいさな部屋・・・。布団を二つ並べたら、足の踏み場もない。寝る為だけの部屋・・・。
藤堂と、しばしそこで過ごすことを許された。
またしても邪魔をされ、興がさめてしまったのであろう、おねぇは、おれを開放してくれた。篠原がとりなしてくれ、そうそうにおねぇのまえから辞した。そして、さっさとこの部屋にきたのである。
「藤堂さん、ありがとうございます。なんてお礼をいっていいのか・・・」
二人とも立ったままである。座るのももどかしい、ていうか、そんな雰囲気ではない。急かされている以上に、かれから拒絶のオーラを感じているからである。
「土方さんは、きみをだしにして、いったいなにを・・・」
いま、かれはしっかりと相手の、つまりおれの瞳をみている。そこまでいってから、そのさきのことを思いいたったにちがいない。言葉をきってから、瞳を伏せる。
そんなかれの相貌をまじまじとみつめ、なんて睫毛がながいんだろう、と場違いなことを思う。
「そうか、いよいよなんだ・・・」
そこにこもっているのは、驚きよりもくるべきものがやってきたという一種の諦観のような響きがある。
「さっき、みなで呑んでいたときも、源さんがしきりにおれをみていて、なにかいいたそうだった。そういうことじゃないかな、と思ったけど・・・。やはり、そうなんだ」
井上も、できうるかぎりのことは試みたにちがいない。
「藤堂さん、おれは、局長と副長から厳命されています。あなたを連れかえるようにと。いえ、それは無理でも、せめて御陵衛士からどこかに雲隠れするよう、説得しろ、と。お二人だけではない。永倉先生と原田先生からも再三、うるさくいわれています」
かれは、瞳を伏せたまま唇を震わせる。蝋燭のささやかな灯のなかで、かれの美貌が翳りを帯びる。
「伊東先生は、なぜあなたに冷たいのです?あなたは、そんなに冷たくされていながら、なぜとどまるのです?高台寺でいいましたよね?御陵衛士は居場所じゃないって?藤堂さん、あなたのいるべき居場所は、あなた自身がよくわかっているのではありませんか」
かれの華奢な両肩を、がっしりとつかむ。力がきつすぎたかとも思ったが、かれは眉一つ動かさない。
かれは、「魁先生」とニックネームをつけられるほど、勇敢な隊士である。会津候の御前試合でも、あの副長のインチキ理心流きたねぇ殺法を、さして相手にすることなく破っている。「北辰一刀流」の目録ではあるが、そこそこの腕前なのである。
「先生は、土方さんとの仲を疑っているんだ。いや、思い込んでいる。誤解が誤解をよんだってわけ」
「はあ?」
蝋燭が立てるちりちりという音にまじり、かれのその告白は囁き声にちかい。
また副長が?
どんだけ疑われれば気がすむんだ、土方歳三。しかも、完全にテリトリー外であるBL系で・・・。
いや、ここは、疑われる側は被害者か。
おねぇ、どんだけBL系トラブルを巻きおこせば気がすむんだ?
おねぇ暗殺の真相を、いまここで確信したような気がする。