ついに初体験・・・?
なんてことだ・・・。
おねぇは、おなじ掌の意味でも、「お掌付き」と思っていたのか・・・?
愕然としてしまう。よりによって、副長のイロだと思われているわけだ。
副長は、どこをどうみてもおれ様系である。おれが受けに思われているだろう・・・。
いや、そんな攻め受けのことはどうでもいい。それ以前の問題である。
くそっ、これだったらオーソドックスな掌の者と疑われていたほうが、よほどいい・・・。
正直、泣きたくなる。こんな疑い、現代でされたことなど一度たりともなかった。そういう経験は当然のこと、周囲にすらいなかった。なのに、なのに、なにゆえ、ここにきてから怒涛のごとく襲い、これほど悩ませるのか・・・。いくら衆道が公然とされている時代だからとはいえ・・・。
いや、そうと疑っているのは、おねぇだけではないのではないのか?篠原たちは、おれが副長のそれで、そのうえでオーソドックスな掌の者になっていると・・・?あぁ、絶対にそうにちがいない。さらには、新撰組でも、隊士たちはそうと疑っているのかも・・・。
被害妄想は、どんどん膨れ上がってゆく・・・。
「なにをぼーっとしているのです、主計?まさか、あの男のことを思い浮かべているのではないのでしょうね?」
「へ?」
赤い唇で頸筋にかぶりつかれ、血をチューチュー吸われるか、唇をチュッチュッとされそうな状況のなか、間抜け面をしているにちがいない。
そうだ。おねぇ一味とおれの周囲におけるその疑惑については、あとで考えるとしよう。
さしあたり、いま、どう答えるかである。
いずれの回答をした後の展開を、脳内ですばやく推測する。
まずは、ノーの場合。おねぇは、それでも幾度も尋ねてくるだろう。こういう疑いは、そうそう晴れるものではない。で、納得させられたとして、安心してこのまま犯され、おねぇは優越感をもって十三日の会談に臨むであろう。
イエスの場合。こちらは、即座に信じるだろう。で、怒りと悔しさが起爆剤となり、激しく犯されるだろう。そして、その勢いのまま、十三日の会談は、微妙に緊張感を伴いつつおこなわれるであろう。
なんてこった。どちらにしても、このまま犯されてしまう・・・。そこだけは、なんの変化もない。しいていうなら、あらっぽくされるかやさしくされるか、である。
あぁやはり、どうせならやさしくされるほうが、おれ的にはいいかも。なにせ、BLワールドは、お初なのだから・・・。
いや、いやいや、まてよ、おれ。そもそも、おねぇのいうところの、「やられる」ことを前提に望みを述べているのか?
だめだ、どうせやられるなら、副長のほうがいい・・・。
いや、なにを考えているおれ?なにをいっているんだ、おれ?くそっ!どんだけ動揺しているんだ、おれは・・・。
しびれを切らしたらしい。おねぇは強引に唇を奪おうと、真っ赤なそれをちかづけてくる。掌足を封じられている以上、動かせるのは唯一口だけである。
「先生っ!おれは、おれは副長と、副長と・・・」
『スパーンッ!』
またしても、障子が音高く開く。
「あ・・・」
そして、開けた者は、いままさに本番に入ろうとしている状況を目の当たりにした人間の、当然のリアクションを示した。つまり、絶句、そしてフリーズである。
救世主、ふたたび。
藤堂、あなたを、終生教祖様と崇め讃えるであろう・・・。