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暗殺の真相・・・?

「主計、あなたももう間もなくこちらにこれますよ。そうすれば、藤堂君も喜ぶでしょう」


 一方的に演説をぶっていたおねぇは、そういってから不意に真っ赤な口を閉じる。しんと静まり返った部屋のうちを、霊が通っていったのであろうか。部屋の片隅で「パシッ!」とラップ音が響く。


 さすがおねぇである。この不可解な音にもまったく動じることはない。音のした方向にを向けただけで、おれの注いだ酒をそのままあおる。

 

「先生、そういえば、先日、高台寺でお会いした際にもおっしゃっていましたよね?」


 音のしたほうへ向けていたを、あらためておねぇのほうへ向ける。おねぇは、鷹揚にうなづく。


「正直なところ、いま、御陵衛士われわれは資金が必要なのです。単独で行動するには、資金はどれだけあってもおおくありません。その資金を、すこしでも古巣からひきだせられるのなら、それにこしたことはない。ですが、それにも限度があるでしょう。御しやすい近藤さんだけなら兎も角、一癖も二癖もある土方君は、じつに厄介です。わたしは、長年句作をしていますが、みたものきいたもの、感じたものを、ああもまずく表現してのける下手糞は、みたことがありません」


 はい?


 膳の上に並ぶ銚子に掌を伸ばしかけたが宙でとめ、おねぇの顔をまじまじと眺めてしまう。


 そこか?そこなのか?


 心中で、もう何十度めかの突込みを入れる。突っ込みの技量は、確実に上がっているはずだと思う。


「厚顔無恥で腹黒な証拠です。ああいう下手糞は、男として最低です。信じることなど、到底できません」


 性質たちの悪いジョークか?


 副長自身もだが、おねぇもまた句作のことで副長を揶揄している。「局中法度」のことや、おねぇにとっては同門の先輩にあたる山南の切腹のことでもなく、その他もろもろの政治的な事柄でもなく・・・。


 句作?句作だと・・・?


 副長の句は、たしかにまずいのだろう。後世、笑いの種にされるほどの駄作なのだ。が、土方歳三を語るのに、句作のことを一番に取沙汰する者はいない。


 句作を通じ、両者の間になにかあったのか・・・。

 このときになってはじめて気がついた。

 先日のあの長ったらしい文に認められていた句は、じつはおれをだしにした副長への挑戦状?いや、挑発?いやいや、嫌味であり優越感だったのであろうか。


 一方で、この突っ込みどころ満載の批評に反論したいし、なにより、腹立たしい。


 あんたのほうが、よほど厚顔無恥の腹黒淫乱男じゃないか、と声高に叫びそうになる。句作のことはよくわからないが、おなじものをみても、人それぞれ感じ方がちがうし、表現の仕方も異なる。副長の句作のことで、おねぇの資金集めが滞っているわけではなく、ましてや思想や活動の妨げになっているわけでもないはず。それを、そこまでいうか?そこまで貶めるのか?

 もっとも、おねぇ暗殺の真相が、句作の批評だったというのなら、びっくりだし、致命傷的な大迷惑だろうが・・・。


「主計、きいていますか?兎に角、新撰組あそこからいただくものをいただき次第、あの人たちにはどうにかなっていただくつもりです」


 つまり、不慮の事故や事件に巻き込まれる、というようなことか。


「そうなれば、新撰組あそこを統合いたします。いましばらくおまちなさい。それと・・・」


 おねぇは、猪口を膳の上に置くと、膳をはさんで斜めまえで酌をしているおれへと掌を伸ばしてくる。刹那以下の後、その掌がおれの右の二の腕をしっかりと握る。きれいに切りそろえた爪が、腕の肉に喰いこむ。それは、すさまじまでの膂力である。


「主計、正直に申しなさい。あなたは、土方君の・・・」


 くそっ!それもいまさらか?だいたい、おれが副長の手の者だってことを、いまさらながら気づき、言及するのか?それとも、引き取った坂井がチクッたか?いや、取り巻きたちが疑問を呈したのか?いずれにしても、いまさら、だろう?


 そんなことを心中で毒づいていた。そして、いったいどうやったのか、気がつくとおねぇの胸のなかにいた。




 そんなことを心中で毒づく。


 そして、いったいどうやったのか、気がつくとおねぇの胸のなかにいた。



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