ぶっとすぎるモノ
やはりぶっとすぎる・・・。
息ができず、かといって、それを払おうと上げた掌まで払われ、絶体絶命のピンチってやつに陥っっている。
「さあ、参りますよ、主計?そんなにやさしく含むだけではいけません。もっと激しく、もっと強くお噛みなさいっ」
おねぇに叱咤された。
それに異を唱えることも同意することもできない。掌で畳をなんども叩く。まるで、叩きのめされてリングに沈みかけたレスラーのごとく。
い、息ができない・・・。ぶっといモノをくわえさせられたまま、朦朧とした意識の向こうで、おねぇがやはり、妖艶な笑みとともにそのモノを口に含みなおす。
「さあっ、きなさい」
おねぇは、真っ赤な唇をモノから離すと、文字通り咆哮する。
黒いはずのモノが、赤く染まっているのが、ぼーっとした瞳でもわかる。
こんな死に方、つまり、窒息死は勘弁してもらいたい。意を決する。あとのことは考えるまい。
猛然と、モノにむしゃぶりつく。
甘い。ただ甘い。超甘い。
おれの前世は、禁忌をおかした菓子職人だったのか、あるいは、菓子を食べたくて食べたくて、無念のうちに死んだのか、どちらかにちがいない。
神様は、いま、ここで、おれにそのときの罰をお与えになったか、願いをかなえてくださったのだ。
絶対にそうだ・・・。
現代の菓子が、現代人の味覚やニーズに合わせた進化版、だということを、あらためて感じる。
この甘さこそが、誠の菓子なのであろう。この強烈な甘さ、こそが。
ふと、島田の汁粉のことを思いだす。島田の汁粉の甘さは、現代でも語り継がれているほどのもの。この甘さに慣れた人々の体験による証言である。ということは・・・。
「島田汁粉」は、現代人にとっては「死の汁粉」、「テロ的汁粉」に充分値するだろう。
いや、この際、そんなことはどうでもいい。
普通の巻き寿司くらいの太さの雲龍を、むさぼるようにかじりつづけるおれ。もちろん、おなじ目線の位置には、おねぇがその真っ赤な唇を動かしている。
ポッキーゲームのルールを、必死に思いだそうとこころみる。そもそも、その余興ともいえるゲームに、ルールなどあったのか?ということにゆきあたる。
男女であっても同性同士であっても、接吻をさせるということが目的だと、そう思い込んでいた。
いや・・・。たしか、折ってしまったほうが負け、というルールはあっただろうか・・・。
考えろ、おれ。このままだと、おねぇと接吻した上に、激しい胸やけに襲われる。
おねぇも必死である。このお戯れに勝つためなのか、ほかに理由があるのかは、この際、考えないようにする。兎に角、瞳だけはおれのそれをしっかりと見据え、じょじょにちかづいてくる。
鼻で息をするしかないので、おねぇの鼻翼が膨らんだりしぼんだりしているのがよくみえる。すでに指三本分くらいの間しかない。
(神様どうか助けて)
神に助けを求めつつ、あきらめの境地にいたる。せめて、瞳のまえに迫りつつあるものをみずにすむよう、両方の瞼を閉じる。このときばかりは、怖いものみたさ、という人間の心理など働かない。
すぱーん!そのとき、音高く、障子が開けられた。その衝撃に、おれもおねぇも、思いっきり雲龍を噛んでしまう。
ぽとり・・・。
雲龍は三分割され、支えのなくなった指三本分が畳の上に落下し、ぐちゃりとつぶれた。