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メタファー

 つ、突っ込みどころが満載すぎる。


 突如、はじまろうとしている宴会ゲームに、どう対処したらいいものか逡巡する。

 これにのれば、かならずや後悔する。火をみずともあきらかなこと。


「ふふっ、いかがいたしたのです、主計?さほどむずかしい戯れ、でもないかと思いますが?」


 おねぇのが、きらきらしている。


「その・・・。先生、このお戯れ、もしかしてさきほどおっしゃっていた方、強いとか、でしょうか?」


 時間稼ぎのつもりできいてみる。


 おねぇの人を喰ったかのような真っ赤な唇が、奇妙な形に歪む。


「いいえ・・・。そうね、その人は、名のごとくまさしく龍、なのです。わたしなどと、過ごすいとまも気もないようです。ですので、わたしは、その人を、龍を喰らってやる、という思いもこめ、今宵、こうして取り寄せたのです。そう、主計、あなたと喰らってやる、つもりでね」


 その意味深すぎる告白に、動揺を悟られぬようするだけでせいいっぱいである。


 たしかに、坂本はおねぇを歯牙にもかけないだろう。先日の様子からみても、坂本は、おねぇより副長のことを気にしているようだし、気に入っているはず。

 

 おねぇが坂本と接触を試みているということは、斎藤からきいている。薩摩に頼まれたからである。このころ、おねぇは、御陵衛士のスポンサーとして薩摩に白羽の矢を立てた。その薩摩が、坂本の居場所を求め、剣術の同門のおねぇを使っている。お互いの益になる、いい材料ねたであろう。

 

 薩摩は、坂本が「酢屋」からどこかほかに潜伏先を移したことは把握しているが、それがどこかまではつかめていない。

 いっぽうで、見廻組の今井は、目付と芸妓を殺害した後、まっすぐ「酢屋」に向かった。それがもしも、血に興奮した今井が、坂本も斬ってしまおうと画策してのことなら、あの日、一夜をそこで過ごすわけはない。いないとわかった時点で、そこを去っただろう。今井は、さらにその後、その足で岩倉のもとに向かった。

 百歩譲って、今井が岩倉の手先であったとすれば、岩倉は薩摩とは別口で坂本を害そうというのだろうか?しかも、岩崎ら土佐と手を組んで?


 いいや、この推理は穴だらけだ。というよりかは無茶ぶりでしかない・・・。


 いや、いまはそこではない。

 おねぇのいう、龍を喰らってやる、というところだ。このメタファーは、この時期、このおねぇの口からでるにはずばりすぎる。


 そう、そのものずばり・・・。


「主計?きいていますか?」


 おねぇのが、おれのそれのすぐまえにある。さらには、唇がおれのそれのすぐまえにある。反射的に、のけぞりそうになる。いや、実際、のけぞる。


 が、それよりもはやく、おねぇの右の掌がおれの後頭部へまわり、おれの短く刈りそろえた髪をがっしりおおった。不覚にも、そのままひきよせられようと・・・。


 そのすばやさはさることながら、後頭部にあてられた掌の力強いこと・・・。頭蓋骨が、悲鳴をあげる。

 

 まずい・・・。唇が、また奪われてしまう・・・。


 幕末ここにきて、いったいどれだけ奪われたことか・・・。いいや、そうはいかないぞ。


 反撃を試みる。具体的には、悲鳴をあげようと唇を開ける。


 その瞬間、口のなかに入ってきた。かろうじてだけを下におろすと、おねぇは、大胆にもおれの口のなかにいれてきた・・・。

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