あの宴会ゲームかいっ!
「これは失礼いたしました」
いずまいを正し、軽く一礼する。
「それにしても、名の一文字というのは兎も角、味、というのはどういう意味でしょう?」
眼前で、おねぇは、先ほどのとおなじ指先をゆらゆらさせる。まるで、鶺鴒の尾のように・・・。先の黒谷での、坂本の見事な鶺鴒の構えを思いだしてしまう。
「そうね。この菓子が、上品かつとてもおいしいということを、あなたもしるべきですよ、主計?」
いや、違うぞ、おねぇ。おれがききたいのは、菓子のことじゃない。それとおなじほうの味、だ。
駆け引きは嫌いではないし、そういう場においては忍耐強い。どれだけ時間をかけようと、目的を達するだけの持久力と忍耐力はある、と思う。
いらいらする。ひかえめにいっても、おねぇが相手だと調子が狂う。ペースを狂わされているばかりか、奪われている。それは、イコール主導権をも意味する。
「じつは、この菓子は、きみに味をしってもらいたいだけでなく、きみと戯れたくて、手に入れていただきました」
おねぇは、また指先をかじる。それから、もう片方の掌もいっしょに、雲龍という名の菓子にそえ、おれのまえにかかげる。
「さきほど話した友人とも、この菓子で戯れたものです。とても喜んで戯れてくれました」
「で、戯れるとは?どのように戯れるのです?」
いらいらと不安とを感じつつ、尋ねる。もちろん、いやな予感もしているが、そもそもここにいることじたい、いやな予感という名の大海で丸太一本にまたがり、掌でかきながら漂っているようなもの。このくらいは些末以下であろう。
「そのまえに、土方君の返答をきかせていただきましょう」
「は?」
雲龍越しに、おねぇがマジな表情でこちらをみている。まぁ伝えておかないと、そもそものお使いの意味がなくなる。
「十三日、近藤局長の妾宅にて、お望みの金子を用意する、とのことです。当日は、酒肴も用意するゆえ、できれば、らくなお気持ちでお越し願いたい、と」
おねぇの真っ赤な唇が、驚きに形づくられる。同時に、「やったわ!」という吹きだしが、さらさらの長髪の上に浮かんだのがみえる。
「承知いたしました。かならずや参ります、と伝えてください、主計」
「承知」
了承すると、おねぇは満足げに一つ二つうなづく。
「これで心おきなく戯れられますね、主計。簡単なことです。この雲龍のこちら側はあなたが、こちら側はわたしが、それぞれ食べはじめ、どちらがおおくかじれるかを競うのです。簡単なお遊びでしょう、主計?」
「・・・」
おねぇの戯れなるものの謎ルールを、ウエルニッケ領域に浸透させる。
ポッキゲームかいっ!
関西弁で思いきり突っ込んでしまう。もちろん、心の中で。
しかも、あらゆる意味で超ヘビーなポッキーゲームである。
この時代に、ある意味エッチなこんな宴会ゲームがあることに驚く。っていうか、ポッキーゲームの発祥は、こういった竿物菓子がはしり、だったりするのか?
だとすれば、昔の人は、そうとうタフということになる。