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悲痛なる懇願

 結局、井上と山崎が一緒にいってくれることになった。


 とはいえ、実際に日程の調整をおこなうのは、おねぇとおれ。つまり、部屋に二人きりで、ということになる。


 気が重くてしかたがない・・・・。おねぇの応対、さらには藤堂へのそれ・・・。


 どちらも、おれには荷が重すぎる。


「主計、わかってるだろうな、えっ?」


 自分の部屋で準備をしていると、永倉と原田がおしかけてきた。


 二人は、おれたちの部屋に乱入するなり、まずは野村にでてゆくよう、丁重にお願いした。


「利三郎、大広間で将棋でも指してこい」


 畳の上にごろんと横になり、夕餉までの自由時間を過ごしている野村をみおろし、原田がいう。


「えっ?ですが先生、わたしは、将棋はまったくわからないのですが」

「ならば、碁でもうってこい」


 永倉である。声に、凄みがありすぎる。


「ですが先生、わたしは碁もできませ・・・」

「利三郎、おまえっ、鈍いやつだな・・・」


 ついに、原田がきれる。


「遠まわしに、でてゆけっていってんだよっ!」

「ですが先生、ここはわたしの部屋・・・」

「いいから、でてゆきやがれっ!おれたちは、主計に用があるんだ。おまえには、なにもねぇっ!」


 そして、永倉もきれる。


「はぁ・・・。だったら、廊下でまっていますよ・・・」


 野村は、勝気な相貌(かお)に、弱弱しい笑みを浮かべる。


「おまえっ!」


 永倉と原田がハモる。


「まあまあ、両先生・・・」


 すばやく、両者の間に入ってなだめにかかる。


「利三郎は、巡察に同行して戻ってきたばかりなのです。利三郎、すまないが、両先生は、おれをぼこりたいらしい。四半時(約30分)ほど大広間にいて、おれが呼びにいかなかったら、副長にチクッてくれ」


 二人にしかわからない言葉でつげる。


 野村が、現代、ていうか、未来の言葉をしりたがるので、いくつか教えたのである。


 みなには内緒で、という条件をつけて。


「大丈夫なのか、主計?わかった、まっている。いうとおりにするよ」


 野村は、謎めいた言葉遊びに優越感に浸っているらしい。そそくさとでてゆく。


「まったく・・・。鈍い野郎だぜ・・・」


 原田は、廊下にでて野村の背中がみえなくなるまで見送る。それから、障子を閉めながら愚痴る。


「おっ兼定、おまえには、あとで中村家の沢庵をもってきてやる。そこでまっててくれよな」


 一度閉めた障子をまた開け、相棒に声をかける。


 原田の長身越しに、相棒が欠伸をしているのがみえる。


 相棒も、自由時間フリータイムである。

 一頭ひとりになったら、一寝入りするだろう。


「でっ、いまのはどういう意味だ、主計?」


 三人きりになると、永倉がきいてくる。


「え?ああ、利三郎にいったことですか?『おれは、いまから両先生にぼこぼこに痛めつけられる。四半時経っても開放されないようだったら、副長にいいつけてほしい』、といったのです」

「おいおいおい、物騒じゃないか・・・。大丈夫か、え?利三郎のやつ、鵜呑みにして副長のところにいかねぇだろうな?」

「えっ、物騒って、そちらのことですか?おれがぼこぼこにされる、ってことでなく?」


 永倉のびびりの対象に、おれは苦笑してしまう。


「では、そうならないように急ぎましょう。両先生のご訪問の目的、この主計、重々承知しております。努力はいたしますが、なにぶんにも、おれは藤堂さんとはたいした付き合いがありません。おれより、井上先生のほうが適任ではありませんか?」

「わかってる。源さんにもちゃんと頼んでる。だがな、連中は、否、厳密にはおねぇ以外は、おれたち試衛館派そのものを警戒してやがるだろう」


 原田にみおろされ、あらためて自分の背の低さに気づかされる。


 おれたちは、部屋の中央に突っ立って話をしている。


「主計、がんばってくれ、なっ?説得できなきゃ、平助は死ぬ。おれと左之が、殺ることになるんだ・・・」

「主計、頼む。頼むから、おれたちに平助を殺らせねぇでくれ・・・」


 二人の悲痛なまでの懇願は、さらなるプレッシャーをかけてくれる。

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