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ブレックファーストミーティング

 結局、原田と林は、夜中の巡察を終えて帰営したところで目明しの鳶の報せを受けたらしい。そして、そのまま道案内をしてもらい、そこで蕎麦屋の仙吉におれからの伝言をきいた。


 そこから、おれたちを探してうろうろしたということだ。

 おれたちが帰営した少し後に戻ってきた二人は、控えめにいってもへろへろだった。


 隊士たちは、大広間で朝餉中である。低血圧の者がおおいのか、屯所の朝は比較的静かだ。朝餉も、

 欠伸をしたり、それをかみ殺したりしながら、ほとんどの者が静かにさっさとかっこんですます。


 朝からテンションが高いのは、すでに道場で朝稽古をすましているか、よほど朝に強い者だけであろう。


 いつもだったら、おれたちも大広間で食事する。だが、この朝は特別に、副長の部屋でよばれることになった。


 とはいえ、副長の部屋は広くない。十畳である。


 京間は、関東間より広いとはいえほんのわずかの差である。でかい図体をした男六人が、膳を並べて座ると、窮屈なくらいである。


「でっ、なにゆえ、今井の野郎は殺りやがったんだ?」


 かいつまんで説明したとき、副長は開口一番にそう尋ねる。


 副長は、いついかなるときも合理的だ。合理的な考え、合理的な会話・・・。


 なので、職場における一般常識たる「ほうれんそう」も、一般常識的におこなっていたのでは通用しない。


「いえ、副長」


 控えめにいう。


 開け放たれた障子の向こう、庭でお座りしている相棒が大欠伸をしている。


 相棒は、賄い方が用意してくれた「ぶっかけ飯ア・ラ・タクアン」を、瞬き五度以内に食したに違いない。


 視線が合う。


『朝寝してもいいよな、ええっ?』


 まるで、労働者の権利を主張するかのような鋭い視線


 そう、コンプライアンス的にも、ここは朝寝をしてもらべきなのだ。


「なにが示現流の達人によるものだ、え、永倉先生よ?」


 副長の不機嫌な声で、おれは視線を戻す。


「だってよ、土方さん・・・」


 玄米飯をかっこむことをやめることなく、永倉がいう。


 夜中、蕎麦を二杯食べていながら、玄米をまるで飲み物のように口のなかに流し込んでいる。


 すごい食欲だと思わざるをえない。


 ちなみに、新選組では、日々、たいていは玄米である。玄米と白米を混ぜたり、ということもある。


 白米だけというのは、祝い事やなにかで手柄を立てたときくらいか。


 おれ自身は、玄米を食べたことがなかったわけではない。だが、すぐに慣れた。

 

 永倉のいいわけをききながら、今井のウイキペディアを思いだしてみる。


 坂本龍馬暗殺の実行犯。蝦夷まで転戦し、戦後、ずいぶんと長生きしている。

 見廻組の隊長である佐々木只三郎が、この後に勃発する「鳥羽伏見の戦い」で銃弾を喰らい、落ちのびる途中、紀州辺りで死んだことを思えば、ずいぶんと運がよかったのだろう。


 そういう経緯が興味深く、佐々木のウイキペディアの内容よりも覚えている。


 さらにもう一点、ウイキペディアのなかで興味深いと思ったことがある。


 佐々木は、小太刀の達人である。今井は、剣の達人。だからこそ、坂本龍馬暗殺の刺客として選ばれたのかもしれない。


 かれは、「最後の剣客」と呼ばれる直心影流の榊原健吉さかきばらけんきちの門下で、たった二十歳で皆伝を得ている。

 講武所の師範代も務めた。かなりの遣い手というわけである。


 そして、これがまた剣士として興味をそそる一語なのだが、「片手打ち」なるものを編みだし、榊原健吉から、それを封印されたという。


 それが本当なら、示現流の初太刀に匹敵するくらいの斬撃かもしれない。


「永倉先生、今井さんの「片手打ち」ってご存知ですか?」


 永倉に、だめもとできいてみる。

 副長にきいても、しっているわけないよな、と思ったからである。


「ああ、みたことある」


 即答である。


 だが、それは問うた永倉からではない。


 それはなんと、副長の口からでたものである。

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