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東郷平八郎と握手しとかなきゃ

 おっと、超有名人にせっかく会えたんだ。握手してもらっておこう。


 こんなチャンスは、もう二度とないだろう。


「すみません。握手してもらってもいいですか?」


 東郷にそう頼むと、かれは一瞬キョトンとした表情かおになったがすぐに応じてくれた。


「なんてことだ。主計の病がはじまったぞ」

「なんだか複雑ですね。わたしは飽きられてしまったのでしょうか」

「すまぬな、八郎。助兵衛の主計には、あとでいいきかせるからよ」


 うしろで、蟻通と伊庭と副長がなんかいっている。


「BL全開ってやつだ」

「そうだね。でも、かれはやっぱり受けだから」


 野村と俊春もなんかいっている。


 ってか野村よ、BLじゃないし。ってか俊春よ、まだおれを受けあつかいするのか?


「主計さんっていやらしいよね」

「そうだよね、鉄っちゃん。主計さんって、だれでもいいんだ」


 さらには、市村と田村がおれのことを誹謗中傷しまくっている。


「東郷さん。じつは、おれには特殊な力があるのです。未来がみえ、知ることのできる能力です。将来、あなたはこの日の本を救い、世界的に有名な英雄になります。いまは大変かもしれませんが、未来を信じてがんばってください」

「本当じゃしか?そんた、うれしかねぇ。おはんの言葉で、これからきばれそうじゃ」


 東郷は、にっこり笑った。


 わお。こんな胡散臭い話しを信じてくれている。


 めっちゃいい人すぎだろう。


 やっぱこんな好人物が、日本を代表する英雄になれるんだ。どこかの「鬼の副長」程度とは、レベルがだんちすぎる。


「いたっ!」


 結論にいたった刹那、後頭部をグーパンチされてしまった。


 こんなことをするのは、心が狭すぎるイケメンしかいない。


「東郷さん、すみません。兎に角、お会いできて光栄です」

「おいどんも光栄じゃ。じゃ、失礼すっ」


 未来の英雄は、さわやかな笑みを残して去っていった。


 ちなみに、かれもまた西郷を慕っている。後年、かれはイギリスに留学をする。イギリスからの帰国途上に、西南戦争で西郷が自害したことを知るのである。

 その際、かれは「自分が日本にいたら、西郷のもとに馳せ参じたのに」とその死を悼むらしい。


「将来、かれは歴史的にも世界的にも有名な元帥海軍大将になるのです。そんな有名人と会えたのです。握手しないわけにはいきませんよ」

「へー、あんなに華奢でちょっと頼りなさそうなのにな」

「でも、それってすっごくクール(・・・)ですよね」


 事情を説明すると、蟻通と市村が驚いた。


「よかったじゃないか、八郎。おまえは、BL攻めで鉄板・・らしいぞ」

「安心しました」


 ええっ?


 副長の理不尽な思い込みは別にしても、伊庭の「安心しました」ってのは?いったい、どういう意味なんだ?


「いやらしい」

「いやらしい」


 俊春と田村のつぶやきがきこえてきた。


「ってか副長、おれのことはどうでもいいんです。ちょっとは怪我人らしくしてください」

「おっと、そうだった」


 ったくもう、しょうのない人だ。


 というわけで、おれたちは薩摩藩の船で早朝に蝦夷を去った。


 生き残ることはわかってはいるものの、新撰組のみんなの無事を祈らずにはいられない。


 離れ行く蝦夷の大地を眺めながら、みんなの無事を祈りつづけた。



 東郷が配慮してくれたのであろう。船室を二部屋、つかわせてもらうことになった。


 とはいえ、二部屋とも狭い。それでも、ほかの傷病人たちは船倉や廊下、より狭い船室におしこめられているので、これは破格の待遇である。


 その一部屋を、蟻通と伊庭と野村と沢と久吉が使い、わずかに広いもう一部屋を残りのおれたちが使うことになった。


 市村と田村は、部屋に入るなり大人一人がギリ横になれるほど狭いベッドの上に倒れこみ、眠ってしまった。


 ベッドは二つしかない。


「副長、主計。床になりますが、これを敷いて眠ってください。ここなら安全ですし、今日はいい天気みたいだから揺れもすくないでしょう。ゆっくり眠れるはずです」


 俊春が、副長とおれに毛布を差しだしてきた。


「ゆっくり眠る必要があるのは、おれたちではない。おまえだ、俊春」


 副長は毛布を受け取ったものの、俊春にそう指摘した。


 その通りである。


 が、俊春は視線を床に落としてしまった。


 そうだった。かれのトラウマは、こんな糞狭いところでおす丸出しでいやらしいフェロモン全開の副長といっしょにいるなんてことを、ぜったいに許さないだろう。


 拷問以上のつらさを味あわせることになる。


「副長は、ここで休んでください。おれはまだ眠くないので、甲板で海を眺めています。いこう、俊春、相棒」


 二人・・をうながした。


 副長がなにかいってくるかと思ったが、とくになにもいわなかったので、そのまま船室をでた。


 俊春と相棒が素直についてくる気配を、背中に感じた。

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