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御仁とは?

 幕末いま、京の夜を追うのにこれだけの人員は必要ない。かえって目立ってしまう。


 というわけで、捜索には松吉の父親と目明しが一人、永倉と島田が一緒にきてくれることになった。


 副長は、屯所の自分の部屋に書類仕事が山ほどあるし、原田と林が率いる九番組は、深更の巡察当番だ。仮眠をとらねばならない。そして、永倉と島田が率いる二番組は、明日、一日非番である。


「なにかあったら、すぐにしらせろ」


 別れ際、副長はおれたちにそういった。


「ですが副長、新撰組われわれが出張るわけにはいきますまい・・・」


 声を潜めている島田の声は、夜のしじまにどっぷりつかっているこの界隈に、しっかりと響き渡る。


 副長の眉間に皺がよる。


「かまわねぇ・・・。おれがいいっていってんだ」


 なんと、職権乱用的な発言である。

 さすがは、「おれさま」系。


「なら、兼定と主計が下手人をみつけ、そいつが斬りかかってきやがったら、殺ってもいいんだな、副長?」

 さすがは永倉である。物騒きわまりない許可を、平気で求める。


「馬鹿いってんじゃねぇよ、新、永倉先生よ」


 副長は呼び間違えかけ、自分で苦笑してからつづける。


「それとこれとは別だ。そいつが雇われてんだったら、どうする?」


「副長、なにをご存知なのです?」


 相棒の綱をたしかめながらきいていたが、立ち上がって副長のをみつめる。


 井戸の縁に置いてある提灯の灯が、副長の二枚目の顔を照らしている。そのは、深くて濃い。そして、その奥にあるものが、ずっと昔から接しているものとおなじように感じられる。


 すくなくとも、つい最近しり合ったばかりとは感じられない。ずっとずっと昔から馴染みのある、なにかと同種のものであるような、そんな錯覚すら抱いてしまう。


「状況から、まず考えられるのが女に関しての揉めごとです。とったとられた、あるいは寝取られた、などです。その場合のおおくが、自分で対象をどうにかしようとします。他人ひとなど雇わずに、です。だが、今回、女は芸妓です。男のおおくがわりきってるでしょう。よほど独占欲が強いとか、落籍せるつもりだとか、以外は・・・。あるいは・・・」


 新撰組なかま、そうでない者、全員がみつめているなか、両肩をすくめる。


「情のもつれ以外の理由わけがあってのことか、自分ではどうにかする力のない、非力な者であるか・・・」


 そこまでいったとき、死んだ芸妓が「さる御仁が贔屓にしていた」、と松吉の父親がいっていたのを思いだす。


「中村殿、芸妓を贔屓にしていたさる御仁とは、いったい何者なのです?」


 副長はそれをきいて、そこから自分なりに推理しているのだろうか。だからこそ、それが奇妙な行動やめいにつながっているのかもしれない。


 ということは、新撰組おれたちにも関係のある御仁、というわけなのか・・・。


「それは・・・」


 松吉の父親がいいかける。

 ほとんどきこえぬほど、ちいさな声で・・・。

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