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副長を見たんだけど……

「まだ話をしたいが、俊春を一人にするわけにもいかない。いってやれよ。明日の朝、また話をしよう」


 そう提案すると、俊冬はこくりとうなずいた。そして、おれが瞼を閉じる間もなく眼前から消え去ってしまった。


「もどろう、相棒」


 踵を返すと、厩のまえで待っている島田たちのほうへあるきはじめた。




 結局、眠れぬ夜をすごした。


 それは、島田と安富と蟻通と沢と久吉も同様である。


 藁の上に横になり、ぽつりぽつりと会話をかわした。


 内容は、まだ永倉と原田と斎藤ら組長たちがいたときのころの思い出話である。


 こっちにきてから、ときにすればそんなに経っていない。なのに、もう何十年も前のことのように思えてくる。


 結局、だれもが完徹状態で、雀たちの声をきく羽目になった。


 だれからともなく起きだし、身支度をしてからお馬さんたちの準備にかかった。


 とそこへ、五稜郭内で眠っていた伊庭と中島と尾関と尾形、それから市村と田村がやってきた。


 ついでに、野村もいる。


「副長をみかけました。榎本総裁と打ち合わせをおこなうのでしょう。総裁の部屋に入ってゆきました。ぽちが同道していました」


 中島の報告に、思わず島田たちと相貌かおを見合わせてしまった。


「といいたいところですが、あれはたまですね。もうすこしでだまされるところでした」

「歳さん以上に歳さんだった。頬の傷も、うまく目立たなくしていたよ」


 中島につづき、伊庭が嘆息しつついった。


 すぐに、昨夜のことを話した。


 もちろん、俊冬とおれの会話は省いて、である。


「ということは、いまだに歳さんはこの五稜郭のどこかに閉じこめられているというわけか」

「八郎さん、おっしゃるとおりです。とりあえず、探さなければ」

「探すだけじゃだめだな。鍵がなければ、そこからだすことができぬ」


 島田のいうとおりである。


「鍵が手に入ったとして、だれが探しますか?」

「わたしたちで探そう。鉄と銀もともに頼む。ここにいるはずのない、わたしたちが探すほうがいいであろう?」


 中島の案に甘えることにした。


「鉄、銀、いいな?副長を探しだしたら、すぐに一本木関門にくればいい」


 島田の命令に、市村と田村は素直にうなずいた。


「だが、副長は?連れてゆくのですか?」

「土方さんは……。そうだな。それはまずいな。副長は、味方からも狙われている。安否だけ確認し、やはりそこに閉じ込めておいた方がよさそうだ」

「勘吾の申すとおりだ。登、なにをいわれても従うな」

「承知」


 島田の命に、中島は了承する。


 そのやりとりをききながら、相棒ならすぐにでも見つけられるかもしれないのにと思った。


 その相棒を見下ろしてみた。すると、相棒もこちらをみている。


「相棒、頼むよ」


 ダメもとで頼んでみた。

 どうせ塩対応するだろうって思いながら。


 が、いつもの「ふふんっ」ではなかった。


 狼面を上下に振ってくれたのである。


 そのタイミングで、沢と久吉がやってきた。


 かれらは、朝餉の後始末で厨にいっていたのである。


「安富先生。副長が、そろそろ出発するのでお馬さんを連れてきてくれ、とのことです」


 沢がいった。が、久吉がおずおずとつけたす。


「たま先生、でした」

「ああ、馬鹿で愚かで頑固者のやつのことであろう?」


 安富は吐き捨てるようにいい、お馬さんたちを連れに厩へ入っていった。


 副長と、いや、副長になりすましている俊冬と俊春、それから十数名の歩兵がすでに待っている。


「ぽち、なにをしている?たまと合流し、作戦を実行に移すんだ」


 おれたちがやってくるのに気がついた俊冬は、ことさらおおきな声で俊春に命じた。


 命じられた俊春は、まずはおれたちをみた。


 その顔色は、昨日のときとさほどかわりはない。つまり、顔色は最悪である。


 いくらタフで回復力がはやいとはいえ、創作の世界にでてくるようにあっという間に傷や病が治るというわけにはいかない。


 もっとも、俊春本人か俊冬が回復系の魔法とかを駆使できるんなら話は別だが。


「ぽち、はやくいけ」


 俊冬は、耳のきこえぬ俊春の気をひいてから再度命じた。


 俊春は、俊冬をみてからまたおれたちの方をみた。


 かれの心の葛藤を目の当たりにした瞬間、俊冬にたいして怒りがわいてきた。


「承知」


 その瞬間、俊春がかぎりなくちいさな声で命令を了承した。


「兼定兄さん、大丈夫。にゃんこと二人で大丈夫だから。兼定兄さんは、主計のいうことをきいてあげて」


 かれは、おれの脚許にいる相棒に唐突にそう告げた。


 いまのは、なにかのメッセージなんだろうか?


 残念ながら、おれにはわからなかった。


 それから俊春は、俊冬が演じる副長にたいして一礼して消えた。

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