表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1224/1254

ネットカフェ

「ええ、お姫様抱っこです。ですが、最後の方はさすがに腕が疲れました」

「だろうな。だって、副長はめっちゃ太ったからな。ってか、またごまかされるところだった」


 俊冬にそういいながら、思わず前後左右を見回してしまった。


 副長がいつの間にかどこからかわいてでて、鉄拳制裁をかましてくるかもしれないからである。


「ごまかす?事実を伝えているだけじゃないか」

「たま、それがごまかしっていうんだよ。お姫様抱っこに意識を向けさせられて、もうすこしで『鍵付き窓なしの部屋で休んでもらって』ってところをスルーしてしまうところだった」

「ああ……」

「ああ、じゃないだろう?なにゆえ、そんな個室タイプのネカフェみたいな部屋に放り込むんだよ」

「ネカフェって、いったことがないんだ。コミックが読み放題で、ドリンクが飲み放題なんだよね?」

「ああ。二十四時間パックだったら、一日中漫画に集中できる……。チェーン店のネカフェだったら、挽き立てコーヒーとか朝食無料サービスってところもあるんだ。当然冷暖房完備だし、めっちゃ快適だよ。って、そこじゃないだろう?」

「きみがネカフェなんていいだすからじゃないか。おれのせいにするなよ」


 たしかに、いまのはおれが悪い。


「いまからわんこの様子をみてくるよ。その間に、副長がまた狙われるともかぎらない。実際、狙っている馬鹿がいるからね」

「なんだと?いったいだれが……」


 島田がすごい勢いで尋ねると、俊冬は両肩をすくめた。一瞬、教えてくれないのかと思った。だが、俊冬は口をひらいた。


「おれたちの永遠のアイドル、今井のすっとこどっこいですよ」

「アイドル?」

「憧れ、でしょうか」


 島田の疑問に、俊冬がすかさず答えた。


「ああ、憧れね」

「島田先生、そこじゃありません」


 島田の好奇心旺盛な永遠の少年っぷりは、いまだ健在である。


 思わずツッコんでしまった。


「あの野郎……。土方さんを狙うなんざ、とんでもないやつだな」

「愛しのお馬さんさんたちに蹴られ、ついでに踏みつけにされればいいのだ」


 蟻通と安富のいう通りである。


 隣人を愛すべき男は、たとえ終末を迎えようがイエス・キリストが復活を遂げようが、副長だけは許せないらしい。


 っていうか、許せないのはおれたちの方なんだが……。


 なるほど。俊冬がいない間の刺客回避方法として、副長をそんなところに閉じ込めたわけか。


「大丈夫。そこまで狭い部屋じゃないから。空気はちゃんとあるし、水とおむすびを置いてきた。トイレ(レストルーム)は……。まあ、イケメンはピーもプーもしないのが通説だから、そこも大丈夫だろう」

「そんなわけあるかいっ!」


 ボケまくる俊冬に、力いっぱいツッコんでしまった。


「ジョークだよ。あの調子なら、朝まで目を覚まさない。念のため、桶は置いておいたから、万が一のときはそれでしのげるはずだ。というわけで、おれはそろそろわんこのところにいくから。兼定兄さんはここにいて」


 いろんな意味で理解に苦しんでいる中、俊冬は手を振ると踵を返してとっととあるきはじめた。


俊冬・・、ちょっと待てよ」


 そのかれを、慌てて追いかけた。


 ドロンと消えてしまうまえに、もうすこし話をしたかったからである。


 島田たちも追いかけてくるかと思ったが、気配がない。

 頭をわずかにうしろへ向けると、その場に立ったままこちらをみている。


 気をきかせて二人きりにしてくれたのだろうか。いや、訂正。相棒もふくめて、三人・・にしてくれたのだろうか。


 たぶん、そうにちがいない。


「なんだい?」


 かれはポーカーフェイスを保ったまま、副長似の相貌かおをこちらにわずかに傾けた。


 しかし、あきらかにイラついているし、不安がってもいる。


 いまのたった一言に、それらがにじみまくっていた。


俊春・・のところにいきたいんだろうけど、すこしだけいいか?」

「わかっているのなら、はやくすませてくれないかい」

「おれがいいたいことは、どうせわかっているんだろう?いまさら、口にだす必要もないよな?」

「どのこと?なにせきみは、だだもれしまくっているからね。さすがのおれも、特定するのはむずかしいよ。ねぇ、兼定兄さん?」


 副長のコピーの相貌かおに、苦笑が浮かんでいる。


 視線を合わせず、おれの左脚許にいる相棒にそれを向けている。


「おいっ、いいかげんにしろよ」


 カッときた。


 いまのおれの相貌かおは、マジな表情かおになっているだろう。怒鳴った声は、低くなっていた。


 かれの視線が、こちらに向いた。


「すまない」


 かれは、唐突に謝ってきた。なににたいしてかはわからないが。


「きみがおれと話をしたい話題について、おれは話をしたくない」

「話をしてもらう」

「する気がない。きみがいくら望もうが願おうが、明日起こることにかわりはない。かえるつもりもない」

 

 あまりにもきっぱりすっきりばっさりいうものだから、またしてもカッときてしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ