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殺されるほど嫌われている?

「よくも悪くも新撰組の「鬼の副長」であることが、だれにでも好戦的なイメージ、もとい印象をあたえているんでしょう」

「くそっ!これは、イケメン(・・・・)であるがゆえの運命さだめか?」

「それは、関係ないと思うがな」


 とんだ見当ちがいなことをいった副長に、冷静にツッコむ安富はさすがである。


「うわあ、副長って嫌われているんだ」

「そうだよね。殺したいって思うほど嫌われているって、ファックでシットだよね」


 しかも、市村と田村もまったく見当ちがいなことをいっている。


 あっ、これはまったくの見当ちがいじゃないか。


 隣で伊庭がふきだした。


 島田らも苦笑している。


「主計っ、てめぇっ!」


 そして副長はいつも通り、さもおれが発言したかのように理不尽に怒鳴ってきた。


「まぁまぁ、土方さん。あんたも自身が好かれているとは思ってはいないだろうが?もっとも、BL(・・)的に愛されることはあってもな。なにせ、土方さんも受け(・・)だから」

「なんだと、勘吾っ!」

「と、主計の心の声がだだもれだ」

「主計っ!」


 またしても、蟻通のマイブームの炸裂である。


「そんなこと、思うわけがないですよ。そりゃぁ、BL的で受けとは確信していますけど」

「主計っ、てめぇっ!てめぇが死んじまえっ」


 なんと。これが現代なら、ソッコーで大炎上する発言である。もちろん、いまのはおれが発言したのでも心の声がだだもれしたのでもない。


 俊冬がおれの声真似をしたのである。


「ってかたま、おれの声真似をするなよ」


 まったくもう。こんなマジな状況でおちゃらけまくるなんて。


「きみの影響だよ」

「はあ?」


 俊冬の謎断言の意味がわからない。


「関西人の影響だよ。だから、どれだけマジな状況でも和ませなきゃって錯覚を起こしてしまうんだ」

「ちょっと待てよ。たしかに、関西人は周囲に影響をおよぼすことはある。だが、それは言葉だ。関西弁をうつしてしまう。行動や性格まで影響をあたえることはない。まあ、愉しく思わせたり和ませたりという影響はあたえることはあるけど。兎に角、自分がそうしなきゃってサービス精神を発揮させるほどの影響力はない」

「主計。きみは思わなくっても、ほかのみんなは思っているんだよ。というわけで、副長。そろそろ時間です。参りましょう」


 思わずガクッときてしまった。


 俊冬のやつ、さすがは「わが道爆走王」である。


 とっとと切り替えるところなどは、さすがとしか言いようがない。


 そして、イケメンズは宴の会場場所である「武蔵野楼」へと向かった。



 市村と田村に弱いのは、なにも大人だけではない。


 じつは、相棒も弱いのである。


 おれがどれだけ懇願しようとも、相棒はぜったいにききいれてはくれなかっただろう。


 だが、市村と田村が相棒を両脇から抱きしめ、「お願いだよ、兼定」だの「ぽち先生に会いたいんだ。連れていって」だのとおねだりをすると、相棒は「チッ、しゃーねぇな。連れていってやるよ」的にすっくと立ちあがり、とことことあるきだした。


 その相棒を市村と田村が過剰なまでに持ち上げつつ、ついてゆきはじめた。

 そのうしろを、おれたちがついてゆく。


 安富も、今回ばかりはきたがった。が、弁天台場から沢や久吉たちが戻ってくるだろう。だれもいなければ、かれらも心細い思いをするはずである。


 だから、安富は残ることになった。


 ぞろぞろとついてゆくと、一本木関門へとつづく道からはずれ、獣道すらない林の中に入ってゆく。


 もしかすると、猟師小屋とかそんなところにいるのか?それとも、洞窟?


 が、途中で相棒が脚を止めた。


 空中に漂うにおいを嗅ぐため、鼻をうっそうと茂る枝葉へと向けた。


 それから、進路をかえた。


 右手には箱館湾。前方には箱館山がみえる。


 一本木関門は、明日、副長が死ぬことになっている。


 これまで、通行人から通行料をとっていた。が、いまはもうそんなどころの騒ぎではない。


 だから、一本木関門自体は無人である。


 俊春は、そんな一本木関門の近くにある赤蝦夷松の幹に背中をあずけ、海を眺めていた。


 相棒がその横にお座りをすると、かれはその頭をやさしくなでた。


「明日、あの海に浮かぶ朝陽というふねを沈めるよう命令を受けているんだ」


 かれは、海を眺めたままだれにともなくつぶやいた。


『そんなところにいて大丈夫なのか?』

『寝ていなくていいのか?』


 思わず、そんなふうに問い詰めたくなった。しかし、かれの雰囲気がそれを許さない。


 市村と田村でさえ、躊躇しているようである。


「蟻通先生。明日は戦場にでず、鉄と銀といっしょにいてやってください」


 俊春は、いまだ海をみたままつぶやくようにいう。


 箱館湾には、敵のふねが浮かんでいる。とはいえ、おかから砲撃されても届かない海上で停泊している。


 明日の総攻撃をまえにし、敵も一息ついているのかもしれない。

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