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やはり、かれも抜かされている

「だれが歳さんを狙っているのか、ということですよね」


 伊庭がつぶやいた。


 そう。そこ、なのである。


 人類の叡智である三人・・には、わかっている。


 が、いまここに三人・・はいない。


 おれたちでは知りようもない。


 いろんな意味でイライラする日中をすごす羽目になってしまった。


 夜になって副長と俊冬が榎本らとの宴にいってから、もう一度打ち合わせをするつもりである。


 相棒はわずかながらソワソワしているものの、檻の中の狼みたいにいったりきたり、というほどのイライラはしていない。


 その様子をみるかぎりでは、俊春の容態が悪くなったりなんてことはないのであろう。


 精神的なつながりのあるかれらのことである。

 俊春に万が一のことでもあれば、すぐに知らせてくれるだろう。その上で、自分はすぐに俊春のもとに駆けつけるはずである。


 そういふうに、いいように理解することにしておくことにした。


 そのように落ち着かない中、俊冬が五稜郭にやってきたのは夕方であった。


 マイ懐中時計の針は、十七時前を指している。


「たまっ、いったいどういうつもりなんだ?」

「主計。きみは、『A hedge between keeps friendship green. 』をしらないのか?」


 俊冬が厩にやってきたとき、思わずかれの懐を脅かすほどちかづいて詰問していた。


「なんだって?ああ、『親しき仲にも礼儀あり』のことか。知っているにきまっているだろう?ってかそんなことをいって、またはぐらかすのか?おれのだだもれの心の中のことは、わかっているんだろう?だったら、そんないい方をしてごまかすなよ」

「失礼だな。それに、そんなにギャーギャーとわめかないでくれ」

「わめかれたくなければ、素直に吐けよ」

「じゃあ、カツ丼が必要だね。それと、煙草シガレットも。それをいうなら、昭和時代に使われていたような事務机や椅子や卓上用のライトも必要だし、きみはもっと年寄りの落ち着いたベテランの刑事コップでなければならない」


 一瞬、俊冬がなにをいっているのか理解できなかった。


「あのなぁ……」


 が、すぐに思いいたった。


 俊冬は、昔の刑事ドラマの取り調べのシーンのことをいっているのである。


『なぁ、俊冬よ。吐いちまえよ。その方がラクになれるぞ』


 そんな感じだろうか。


「あんなのはドラマだけだ。実際、取り調べでカツ丼なんかとるものか」


 そういいながら、その当時の刑事ドラマだと、カツ丼を出前するのは岡持ちだったんだろう。だけどいまどき、つまり現代だと「Ub〇r Eats」なんかがするんだろうなって、どうでもいいことをかんがえてしまった。


「だから、そんなことじゃない」

「たま」

「たま先生」

「たま先生、ぽち先生は?」


 ちょうど副長もやってきた。島田と相棒、それに市村と田村もいっしょである。

 おれの怒鳴り声をきいたのか、そのタイミングで厩から安富と蟻通と伊庭がでてきた。


 安富はお馬さんたちと親密なときをすごしていたが、蟻通と伊庭はひと眠りしていたのである。


 ナイス、市村と田村。

 おれでは尋ねにくいことも、かれらならストレートに尋ねてくれる。


 かれらは、悪気などまったくない無垢な天使みたいに、俊冬にまとわりついた。


 やはり……。


 俊冬も抜かされている。

 もちろん背を、である。


 俊冬は市村と田村にまとわりつかれ、じゃっかん上目遣いになりつつ「世の無常」に気がついたらしい。


 いや……。


 これまでごまかし、目を背けていた事実を嫌でも思い知らされたと表現した方がいいかもしれない。


 副長似のイケメンの眉間に、本家もびっくりなほどの皺が濃く深く刻まれた。


 ふふん。みんなどんどん背を抜かされればいいんだ。そして、現実がどれほど無慈悲で冷たいものかを思い知ればいいんだ。


 俊冬の眉間の皺をみつめつつ、心の中で快哉を叫んでしまった。


「たま先生、ぽち先生はどこにいるのですか?」

「ぽち先生の怪我は、大丈夫なのですか?」


 かれらの身長が伸びるということは、ごく自然な出来事である。それが、人体の構造である。逆にいうと、成長しない方がおかしいし不自然である。


 ゆえに、かれらはちっとも悪くない。


 たとえここにいるほとんどの大人に不快感をあたえようが、絶望を知らしめようが、かれらはちっとも悪くない。


 ちっとも悪くないのである。


 だがな、きみたち。竹の子じゃないんだから、そろそろ縦に伸びるのはやめておこうぜ。


 そう忠告をしたくなってしまう。 


「鉄、銀。悪いけど、ちょっと離れてくれないかな?」


 俊冬は、やわらかい笑みとともに二人にお願いをした。


「ええっ?たま先生までそんなことをいうのですか?」

「最近、みんなちかづくなっていうのです」


 二人にちかづいて欲しくないのは、おれたちだけではないらしい。


 かわいそうだが、そこは男の矜持を護るためということで、素直に受け入れて欲しい。


「ごめん。主計がそうしろっていうからね」

「また主計さん?」

「ひどすぎる」


 ちょっ……。


 俊冬、またおれをはめるのか?


 親父にいいつけてやる。

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