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俊春 被弾!

 事件は、運命の日の前日の戦いの最中に起こった。


 その戦いで、敵はじつによくねばってくれた。


 俊春から指示を受けた副長の命令のもと、伝習隊や衝鋒隊などの混成部隊が銃を撃ちまくっていた。


 俊春は、途中自分が陽動攪乱にいくと申しでた。


 きりがないから、このあたりで決着けりをつけようというわけである。


 副長はすぐに許可をだした。


 そして、俊春は暴れまくった。


 敵は「狂い犬」の驚異的な力を目の当たりにし、じょじょに退きはじめた。


 そこまではよかった。そこまでは問題なかったのである。


 じつはその三日前、箱館山で警備の任にあたっていた新撰組の隊士たちが不審者を捕えた。


 その不審者は、どうやら地雷火、つまり地雷を仕掛けようとしていたらしい。


 敵の間者である。


 が、俊冬と俊春がとんでもないことをいいだした。


『敵の間者のフリをした味方だ』


 そんなことを告げたのである。


 ということは、裏切り者がいるということである。


 手土産持参で敵に投降しようというのだろうか。


 すでに負けは確定している。


 敵に取り入るならば、すこしでもはやいほうがいい。そして、でかい手土産があったほうがいい。


 そんなふうにかんがえての行動なのかもしれない。


 そんな経緯があり、運命の日を明日に控えたこの日中での戦いである。


 戦いそのものは問題なかった。


 味方は敵に向け、いまだパンパンと銃を撃っている。


「もう充分だ。撤退するぞ」


 副長は、俊春から撤退するタイミングをきいている。いまがそのタイミングらしい。


 というわけで副長が指示をだすと、島田や蟻通たちがその指示を各小隊へ飛ばした。


 副長が「竹殿」の鞍の上でムダにカッコつけつつ馬首を返そうとした、まさしくそのときである。


 その副長の頭上に、俊春と相棒があらわれた。


 あまりにも突然で奇抜すぎる登場の仕方に、びっくりしすぎて腰を抜かすところだった。


 テレポーテーション。まさしく、そんなあらわれ方だった。


 俊春は、おおいかぶさるようにして頭上から副長にぶつかった。


「パーン」

「パーン」

「パーン」


 二人がもつれつつ「竹殿」から落馬したと同時に、すぐ至近距離で三発の銃声が轟いた。


 一瞬、いや、これらは刹那の出来事である。


 いまの発射音は、驚くほど至近距離だった。

 ということは、敵が発射したわけではない。味方のだれかである。


 このときには、撤退の指示が出ていてだれも銃を撃っていない。


 それなのに、だれかが銃を撃ったのである。


 発射音のした方をみたが、銃兵や歩兵が入り乱れてカオス状態になっている。つまり、だれが撃ったのか判別することは不可能というわけだ。


「か、兼定、兄さん……。行って……。ぼくは、ぼくはすぐには追えそうにない。ぼくのかわりに、お願い」


 そのとき、俊春の弱弱しい声がきこえてきた。


 視線をそちらへ向けた瞬間、相棒が駆けだした。


 あっという間に、相棒は銃の発射音のした方向へと駆け去ってしまった。


俊春・・俊春・・っ」


 俊春は、副長の下敷きになっている。副長があわてふためいて起き上がったときには、島田と安富と蟻通、それから伊庭とおれも二人に駆け寄っていた。


「『竹殿』、大丈夫。落ち着け」


 安富は、動揺している「竹殿」の手綱を握ってなだめている。


「歳さん」


 伊庭が副長の無事を確かめようとその両肩をつかもうとするも、副長はそれを無視して俊春を抱き上げようとしている。


俊春・・……。副長、落ち着いてください」


 島田も副長を止めようと、その腕をつかんだ。


「離せっ!くそっ、なにゆえかばった?俊春、くそっ」


 これほど動揺している副長はめずらしい。いや、はじめてみるかもしれない。


 そして、おれも……。


 ぐったりしている俊春をみた瞬間、頭の中が真っ白になってしまった。


「俊春っ!」


 副長たちを押しのけ、その華奢な体にしがみついた。


「だから、ぼくに触れないで」


 途端にぴしゃりといわれてしまった。


 俊春のいつもの反応である。


 が、かれの相貌かおはゾンビ以上に青ざめているし、いまの声も弱弱しく苦し気だった。


 かれが強がっているのは、まず間違いない。


「強がりじゃないよ。ちょっとかすっただけだから。それよりも、連中を追わなきゃ。兼定兄さんと合流しなきゃ……」


 俊春は、そうつぶやくなりおれをおしのけ立ち上がろうとした。


「馬鹿なことをいうな。寝ていろ。どこを撃たれた?」

「だから、ぼくから離れて。大丈夫、大丈夫だから。ぼくよりも、周囲に気をつけて。副長が撃たれたことに気がついた人がいるかもしれない。士気にかかわるし、あらぬ誤解をあたえかねない……」


 俊春は、そうつぶやきながら必死に立ち上がろうとしている。


 かれのいうことはわかる。わかるのだが、まずはかれ自身のことだろう?


 かれのつぶやきの意味は、島田も蟻通も即座に理解している。


 島田と蟻通は、まだ周囲に残って何事かとこちらをみている兵卒たちに大声で呼びかけはじめた。




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