草食系男子だよね?
「その手にはのらないぞ」
だから、俊春にニヒルな笑みとともに忠告してやった。
「悪いけど、いまきみの笑みはニヒルな笑みというよりかは、ひきつっているようにしかみえないよ」
「ったく、だだもれの内容にいちいちツッコんでくるなよ。でっ、雄を感じないってどういう意味なんだ?」
「主計、きみはほんとうにどうでもいいことにこだわるよね。だから、その言葉どおりさ。きみには、男を感じないという意味。Understand?」
「はあ?やはりわからない。ってか、男を感じない?おれは男らしくないっていうのか?」
ショック大である。
自分では、そこそこ男っぽいと思っているんだが。
「じゃぁきみは、「アーノル〇・シュワルツェネッガー」や「シルヴェス〇ー・スタローン」みたいなわけ?自分のことを、そんなふうにとらえているの?」
「そんなわけはないだろうが。極端なことをいうなよ」
「ぼくは、いい意味でいっているんだ。ミスター・ソウマにだって雄を感じなかった。これでわかっただろう?」
そこではじめて、かれのいう「雄」の意味がわかったような気がした。
そっち系の意味なのか……。
ってか、そっち系でもビミョーである。
だって、女性からみてもそう思われているのだとすれば?
くそっ!セックスアピール、つまりおれには性的魅力がゼロってわけか?
やはり、ショック大にかわりはない。
「いや、やっぱ納得いかない。きみが親父に感じないのはあたりまえだろう?だが、なにゆえおれが?」
「どうみたってきみは受けだ」
「待てって。またその話しか?だから、受けじゃないって。そもそも、BLでもないって。何度もいわせるなよ」
「だから、攻めじゃないだろう?ぼくも何度もいいたくないよ。だけど、きみは自分のことをわかっていないから、わからせてあげているんじゃないか」
「ぽち、待て」
なんか仔犬を訓練するハンドラーみたいである。
ってか、おれってばもともとハンドラーじゃないか。
っていう、ツッコミはやめておこう。ジョークにならないから。
「じゃあ、百歩譲ろう。草食系男子だね」
「……」
俊春はかっこかわいい相貌をニコニコさせ、うれしそうに断言してきた。
よりにもよって草食系男子認定されるなんて、どうかんがえてもビミョーすぎる。
「肉食系じゃないでしょう?そうだよね?ちがうの?まさか、肉食系だなんていわないよね?思わないよね?」
かれは、こちらがだまっているのをいいことに質問攻めをしてくる。
ってか百五十年ほど過去の蝦夷の戦地で、受けとか攻めとか草食系とか肉食系とか、いい合うことなのか?
「もういいよ。なんか馬鹿馬鹿しくなってきた。ってか、おれのことじゃないだろう?もうすこしでまたはぐらかされるところだった。きみとたまは、はぐらかしたりごまかしたりがマジでうますぎるよな」
「きみも、だんだん知恵がついてきているね」
「ほっとけ。それよりも、たまのことだ。なにゆえ、きみにたいして厳しいんだ?しかも、ここ最近めっちゃひどいじゃないか」
俊春にちかづきかけて思いなおした。
また雄じゃないだの受けだの草食系だのいわれたくない。
「かれは、ぼくが嫌いなだけさ。いっただろう?かれは、ぼくのことがうざいんだ」
「あのなぁ、そんなことあるわけないだろう?おれのことが嫌いでうざいっていうのなら兎も角、たまがきみのことをそんな風に思ったり、ましてやそれが理由できみにあたったりなんてこと、ぜったいにありえない」
「そうだね。かれがきみを嫌ったりうざがったりっていうのは、そうかもしれない」
「おいおい、ふつーそこは「そうじゃない」とか「そんなわけはない」とか、否定するところじゃないか」
「へー、そうなんだ」
ダメだ。俊春は、このことについて話し合う気がまったくないらしい。
だから、すぐにはぐらかそうとする。
「もう行きたいんだけど」
かれが控えめにいってきた。
「ごめん。そうだな。なあ、気をつけろ。頼むから、あんまりムチャぶりはしないでくれ。このまえみたいに、HPが尽きる寸前みたいになったら大変だから」
「うん、そうだね。大丈夫、きみの八郎君はぜったいに護り抜くから」
「きみならそうしてくれることはわかっている。だが、きみ自身のことも心配なんだ」
「ははっ!ぼくになにかあったら、それはぼく自身のミス。不手際だ。にゃんこがよろこぶだろうね」
かれの乾いた笑声が耳にまとわりつく。
「じゃあ」
それが耳から消え去ったと同時に、かれの姿も消えていた。
「きみは勘違いしているのか?それとも、きみ自身、俊冬に嫌われていると思いこもうとしているのか?」
木の枝葉が一瞬だけ揺れ、そのあとは静寂が訪れた。
俊春が去った方向に、そうつぶやいていた。
相棒もまた狼面をおなじ方向に向けている。




