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フランス軍の軍人たちよ、お疲れさん!

「ブリュネらは、そもそもフランス軍の軍籍を離脱しての参加ですからね。本来なら、不名誉な状態のまま軍籍を剥奪されて然るべきです。それどころか、軍の刑務所、もとい牢屋に放り込まれてもおかしくないのです。が、ブリュネは抜かりはありませんでした。かれは、離脱する際にふみを残していました。おそらく、おれたちに与してドンパチやることを、すっげー大義名分でもふりかざして書き記したのかもしれません。そのふみが、フランスで新聞、もとい瓦版に載せられるのです。それは、あっという間に支持を受けることになります。一般人は、そういう英雄的行為を好みますからね。結局、かれは予備役、つまり軍に残ることになります。そして、手柄を立てて名誉を回復します。最終的には、けっこういい地位にまでのぼりつめることになります。たしか榎本総裁の上奏で、幕府で指導した功績を讃えられて勲章を授与されます。そうそう、おれたちのいた時代では、かれをモデル、もとい参考にして映画、芝居のようなものなんですが、そんなものもつくられました」


 おれの説明に、副長たちは「へー」とか「ほう」とつぶやきつつ感心している。


「まぁ、連中も充分やってくれたからな。ここまでつきあわせてしまったのだ。いまのうちに逃げるほうがいいだろう」


 副長のいうとおりである。


 ブリュネらは軍事顧問団とし、来日して幕府軍を訓練した。だからといって、軍歴だけでなく人生を賭けてまで協力する必要はなかったのである。


 ふと、映画「ラス〇サムライ」を思い出してしまった。


「トム・〇ルーズ」が演じた主役の大尉は、どういう気持ちで不平士族に与したのだろう。


「そうですね。副長のおっしゃる通りだと思います。それに、このタイミングで五稜郭に戻ってもらうのも賛成です。かれらも、勝って去るのです。納得してくれるはずです」


 副長に同意すると、俊春が彼らを呼びにいった。


 俊春自身、木古内にゆく前にかれらに挨拶しておきたいという。


 もしかすると、もう会えないかもしれないからである。


 フランス軍の軍人たちがやって来ると、まずは副長がエラソーに講釈をたれた。


 まるで小中学校の朝礼で、校長先生がしゃべるときみたいである。


 ムダに長いのなんのって。


 貧血で倒れる人が続出するんじゃないかってヒヤヒヤしてしまう。


 もしもここに人見がいたら、貧血ではなく居眠りぶっこいてバタッと倒れてしまうだろう。

 

 いや、人見かれなら確実に倒れる。


 ってか、どうかんがえたってどうでもいいようなことばっかいっているような気がするのは、おれの気のせいなのだろうか。


「はい、お疲れさん。協力に感謝!もういいから五稜郭に帰ってよし」


 これだけですむことではないのか?


 正直、これは苦痛である。


 二昼夜ちかく、ウトウトする程度でほぼほぼ全力で稼働している。いや、その前日もあまり眠っていないので、三日三晩フル稼働しているようなものである。


 苦痛どころか拷問である。


 島田は、疲れきっている様子で欠伸を噛み殺している。蟻通もまた疲れきった表情かおで、こちらはめっちゃ欠伸をしている。


 安富にいたっては、もはや副長のムダきわまりない演説に不快感を隠すどころか、めっちゃ不快感もあらわな表情かおをしている。


 が、面白いのは俊春である。


 フランス語はわからないが、同時通訳しているかれのフランス語は、どう見積もっても副長の日本語よりかなり短い。というか、単語がめっちゃくちゃすくない気がする。


 俊冬にちかづいて尋ねてみた。


 俊春は、ちゃんとトランスレイトしているのか、と。


 すると、俊冬は可笑しそうにプッとふいてから答えた。


「パーセンテージでいったら、十パーセントもトランスレイトしていないさ。気持ちがいいくらい省略しすぎている。っていうか、原文からかけ離れている。まっかれらにすれば、わんこのトランスレイトくらいでちょうどいいんだろう」


 さすがは俊春。


 機転がききすぎている。


 ってか、それだったら副長の口を閉じさせた方がよくね?って思ってしまう。


 そして、三十分ほどの後、やっとおわった。


 フランス軍の軍人たちは、機嫌よく五稜郭に戻ることを了承したのであった。


 というわけで、島田と安富もいったん二股口から離れることになった。


 俊春はフランス軍の兵士たちと談笑し、握手をしてからこちらに戻ってきた。


「わんこ、さっさといけ」


 彼がこちらに戻ってくるなり、俊冬がピシャリといった。


 刹那の間であるが、俊春の相貌かおに寂しそうというか悲し気というか、そんな感じの表情が浮かんだような気がした。


「いわれなくっても、もういくよ」


 そして、俊春はちょっとだけ拗ねたようにいい返した。


「わかっているな?八郎君はもちろんのこと、大鳥先生や人見さんも護らなきゃならない。失敗しました、護れませんでした、は通用しない……」

「わかっているよっ」


 俊春は、俊冬がいい終わらぬまでに叫んだ。


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