表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

120/1255

かわいい「わんわん」

 おれたちが門にいったとき、すでに二人を応対している者がいる。


 二人というのは、小六とその連れの武士のことである。


 そして、応対している者、というのは副長である。


 武士のほうが、副長に一方的に話をしている。

 副長は、剣術には縁のなさそうなきれいな掌を顎にあて、マジな表情かおでききいっている。


 門に据えられた篝火で、武士は二十代、黒い紋付に袴姿であることがみてとれる。


「同心じゃねぇか・・・」


 永倉が、呟く。


 先日、鴨川で会った同心たちを思いだす。たしかに、おなじような雰囲気がある。


「ああ、おめぇらか?」


 おれたちに気がつき、副長がいう。


「坊の父上だ。原田先生と、相馬先生を訪ねてらっしゃった」


 副長は、部外者のまえでおれたちを呼ぶとき、たいていは先生をつける。


「で、土方さ・・・副長は?公用のかえりで?」


 永倉の問いへの副長の返答は、一睨みである。


 つまり、女のところから、というわけである。


「東町奉行番方同心中村兵衛なかむらひょうえと申します。此度は、妻子が世話になり、かたじけのうございます」


 松吉の父親は、そう名乗ると頭を下げる。

 おれたちも慌てて、おなじように下げる。


 黒の紋付袴姿がおなじというだけで、先日の鴨川の同心たちとはまったく違うタイプの男のようである。


「中村殿、これが九番組組長の原田、伍長の林。それと、こっちが隊士の相馬。二番組組長の永倉に伍長の島田です。ときがねぇ、相馬先生、兼定を連れてこい。特別任務だ。すぐにゆくぞ」

「ええっ!」


 その場にいる全員が叫ぶ。

 松吉の父親、小六も含めて、である。


「ぐずぐずするなっ!とっとと連れてきやがれ。事情は、あるきながら話す」


 一喝され、すぐに相棒を連れにゆく。そして、相棒の首輪にいつもの綱を結んで戻ったときには、永倉たちも帯刀してまっていた。

 

「かわいい「わんわん」ときいておりました、が・・・」


 松吉の父親は、おれに許可を得てから両膝を折り、困惑のていで相棒の頭を撫でながらいう。


 ここにも犬好きがいる。子どもらが犬を怖がらないのは、当然であろう。


 あとでしったのだが、中村家で飼っていた犬が死んだばかりだという。


 先日、中村家を訪れていたにもかかわらず、武家の屋敷であることに気がつかなかった。


 たしかに、長屋住まいと勝手に想像していたので、庭つきの一軒家を意外に思った。

 が、武家か商家か、あるいは、それ以外のものかまで、判断できるはずもない。


「相棒、かわいいなんてこと、ちいさいとき以来だな?」


 そうからかうと、相棒は不満げに眉間に皺をよせる。

 

 そういえば、副長に会ってからというもの、その仕草がじつによく似ているということに気がついた。

 っていうか、激似である。


「あぁですが、おとなしくてかわいいですな」


 松吉の父親が付け足す。


 まぁ、犬好きはたいていそういう。


 そのかわいい、という意味は、容姿ではなく犬、というところで等しく表現できる魔法の言葉なのである。


 そして、おれたちは屯所をでた。


 なにがなにやらわからぬままに、である。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ