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ジョンのリモート説法

「わかったわかった。ぽち、きみにボケろとはいわないよ。って、いまはそんな話じゃないだろう?せっかく島田先生がイケメンズを見張ってくれているんだ。手っ取り早く話をすませてしまおう」

「おまえのせいだろうが」


 せっかく正論をぶったというのに、全員にツッコまれてしまった。


「兎に角、馬鹿は放っておいて本題に入ろう」


 蟻通がマジに宣言をした。


 そもそも、あんたがボケたからじゃないか。


 ダダもれの心のなかでツッコんでおいた。 


 そのとき、俊春と相棒が相貌かおを背後に向けた。


 どんな高性能なレーダーより感度のいい二人・・の五感プラス第六感が、なにかの存在をキャッチしたのであろうか。


「くる」


 俊春が、ムダにマジな表情かおでつぶやいた。


「くるって何が……」

「グッド・イーブニング、ボン・ソワール」


 おれが尋ねかけたタイミングで、厩の角を曲がって野村あらためジョンがあらわれた。


「あの野郎、いたのか?」


 蟻通がつぶやいた。


「久方ぶりに会う気がする」


 さらには、尾形がつぶやく。


「あまりにも姿をみぬので死んだのかと思っていた」


 そして、尾関。


「弁天台場にゆくのも、うまく回避していたからな」


 さらにさらに、中島。


「愛しのお馬さんたちの方が、よほど存在感がある」


 これは、当然安富。


「おまえ、なにをやっているんだよ」

「ノンノン、主計。そんなに怒鳴るなよ」

「怒鳴りたくもなるだろう?みんな、必死で戦っているのに、遊んでばかりじゃないか」

「失礼な。慰問してみなを元気づけ、希望をあたえている。これは必要かつ重要なことだ。神にかわってありがたき教えをあたえ、導くのだ」

「はあああああ?おまえ、いつの間に似非伝道師になったんだ?ってか神にかわってって、エラソーにいうなよ。罰が当たるぞ」

「蝦夷にきてから神になった。蝦夷ここには、いろいろな神がいるからな。信じる者は救われる。われに従え。われを讃えよ。されば、道が開けるであろう」

「おまえなぁ……」


 開いた口がふさがりそうにない。


 なんちゃって宗教家だ。しかも、めちゃくちゃな教えだ。


 まぁたしかに、蝦夷では人智のおよばぬ存在などを『カムイ』とあらわすことはあるけれど、野村のいうこととはまた意味が異なる。


「くだらぬ」


 安富が吐き捨てるようにいった。


 安富は、もしもお馬さんの神が導くのならホイホイ導かれるにちがいない。


「ならば利三郎、弁天台場でわたしたちを導いてくれ。それが、筋だよな?」


 ナイス、中島。すっげー嫌味だ。


「さきに二股口でもいいぞ」


 蟻通もナイス。


「ジョン、ぜひとも木古内にもきてもらいたいな」


 さすがは伊庭。そこまでいったら、ナイスすぎてしびれてしまう。


 全員が、野村あらためジョンのリアクションに注目している。子どもらも相棒も、かれに熱い視線を向けている。


「案ずるな。なにも物理的にゆく必要はない。この場より、それぞれの地へ念を飛ばす。おおくの将兵に、リモート(・・・・)で教えを授けるというわけだ」

「おまっ、ぜったいに現代にいったことあるよな?」


 ソッコーでツッコんでしまった。


「すごいな。まるで、カルト集団の総帥だ」


 隣で俊春がつぶやいた。


「ああいう集団は、テロ組織同様性質(たち)が悪いんだ。洗脳されまくっているからね。いろんな国でそういうカルト集団の幹部たちを始末したけど、平気で信者を盾にしてくる。やりにくいったらなかったよ」

「だろうな」


 日本でもそういう系の事件があったし、大小問わずトラブルや事件は絶えることはないんだろう。


「あとで土方さんにチクって(・・・・)やる。いまから大事な話をするんだ。おまえも、ききたければおとなしく座っていろ」


 蟻通もビミョーに未来の言葉をつかってくる。


 野村あらためジョンは、意外にも蟻通のいうとおりに子どもらとおなじ木箱に腰をおろした。


「話、というのはほかでもない」


 蟻通は、全員をみまわした。


 島田がいなければ、自然と主導権を握るところなどさすがである。


 蟻通は、新撰組では島田同様最古参の隊士である。しかも、永倉や原田や斎藤といった組長たちと同格の実力がある。それなのに、隊士たちの面倒をみるのが面倒だっていう理由だけで、組長にならなかったのである。

 どれだけ近藤局長や副長がすすめても、隊士の方が楽だといい、組長になることをつっぱねた。


 ちょっとかわっている。


 が、「面倒くさいからヤダ」とか「隊士の方がお気楽だ」なんてわがままをいうのも、状況が許さなくなってきた。


 組長クラスが根こそぎ去ってしまい、まとめる者がほかにいなくなったからである。  


 つまり、組長にかわるまとめ役が必要になったわけである。


 副長も、かれや島田に頼らざるを得ない。実力はさることながら、信頼できる者でないといけないからである。


 蟻通もそれは重々承知しているのだろう。


 だから島田が不在の場合は、自然とリーダーシップを発揮するのかもしれない。


 もっとも、それも周囲が蟻通を認めているだからこそである。


 これが嫌われ者とかであれば、リーダーシップをとろうものならソッコーでディスられるであろうから。

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