ボケとツッコミ
結局、蟻通とのアイコンタクトで市村と田村に告げることに決めた。
中島と尾形と尾関が、弁天台場から物資の補給をしに戻ってくるという。
かれらも交え、話をした方がいいという結論にいたった。
副長は、榎本など箱館政権のお偉いさん方に二股口と木古内の状況を伝えにいっている。
最近、榎本らお偉いさんたちは五稜郭にいることがおおい。
結局、敵軍の侵攻を止められずに箱館から五稜郭に移り、ここで終戦をむかえることになる。
かれらは、五稜郭が最終の地であるとすでに予測しているのかもしれない。
それは兎も角、副長は、たかだか報告のくせに一人では心細いらしい。同道するよう、島田と俊冬と俊春に命じた。
が、俊春はすこしでも体を休めなければならない。
この後、かれはおれたちの何千倍も働かなければならないからである。
ゆえに、副長は島田と俊冬を連れていった。
正直なところ、島田にはいってほしくなかった。
おれたちをまとめてもらわねばならないからである。
が、かれをムダにひきとめると、副長に気づかれるかもしれない。それに、俊冬の見張り役も必要である。
島田には申し訳ないが、イケメンズの面倒をみてもらうことにした。
ちなみに、俊春の体を休めるというのは方便である。
俊冬は、副長にうながされて榎本の部屋にいきかけた。が、そのタイミングで俊春にメンチ切った。
「メンチ切る」とは、にらみつけるという意味である。
俊春もメンチ切り返した。
いつもは俊冬にたいして従順なかれが、最近はずいぶんと強気である。
それほどまでに精神的に追い詰められているのかもしれない。
厩は、安富にとって聖域である。
ここ五稜郭のかなりこじんまりしている厩も、すでに安富とかれのお馬さんたちの甘い巣になっている。
もちろん、厩にはほかの隊に所属しているお馬さんたちもいる。
かれは、一手に面倒を引き受けているのである。
というわけで、厩でミーティングをすることにした。
厳密には、厩のまえに木箱をいくつも並べ、そこに座ることにした。
いわゆる青空会議ってやつだ。
俊春とおれとで「ザ・コーヒー」を淹れた。
もう残りもすくないらしい。
牛乳は、ヤバそうである。
冷蔵庫がないし、日持ちするようになんらかの加工もされていない。
ヤバくなるのも当然であろう。
俊春は、こちらが不安になるほど牛乳のにおいを嗅ぎまくっている。
「大丈夫」
永遠ともいえるほどの時間の経過のあと、かれはそう判断をくだした。
「大丈夫って、あれだけにおいを嗅いでいるって時点ですでにヤバいだろう?本当に大丈夫なのか」
思わずツッコんでしまった。
「Probably」
「いや、マジで大丈夫なのか?」
「Maybe」
「おいおい、なんか確率下がってないか?もう一度きくけど、大丈夫なんだろうな?牛乳って賞味期限内でも体調によったらお腹ごろごろ、ぴーぴーになることがあるんだぞ」
「Possibly」
「はああああ?大丈夫度が十パーセント程度まで下がったぞ」
「冗談だよ。やめておこう。そのかわり、砂糖を大量にいれればいい」
たしかに、その方が無難だ。
でがらしみたいなコーヒーに砂糖をおおめにいれたものと、カステラがあったのでそれとを添え、全員に配った。
市村と田村は、すでにコーヒーとは呼べぬちょっと色のついた白湯イン砂糖を、よろこんで吞んでいる。ほかの者も、こんなものかってな感じで吞んでいる。
「わたしは、もっと濃くても大丈夫だ」
「本当は、もっと濃いのです。もう豆が残り少ないらしくって」
って、伊庭?なにゆえ、ここにいる。
しかも、いること自体が自然すぎてだれもなにもいわない。
おれも、いまはじめて思いだした。
そもそも、かれは新撰組の一員ではないということを。
「さて、一息ついたところでおひらきにするか」
「なんでやねんっ!」
蟻通のボケに、反射的に思いっきりツッコんでいた。
「ははは!新撰組は、誠に居心地がいい」
伊庭は、きらきら輝きつついまのネタを笑ってくれている。
かれが笑ってくれるのなら、本格的なお笑いを披露したくなってくる。
「ぼくは嫌だよ」
おれの隣で俊春が拒否った。
ってか、なにゆえいつも伊庭と俊春はおれを真ん中にして座るんだ?
「嫌ってなにが嫌なんだよ」
俊春に謎拒否されてしまった。
「ぼくは、ツッコミ役だからね。ボケはにゃんこだ。だから、ぼくはボケることができない」
「だから、おれをよむなって。って、ダダもれしていてもスルーすればいいだろう?」
「こういうことは、はっきりとしておかなきゃ。ねぇ、兼定兄さん?」
かれは、足許でお座りをしている相棒に同意を求めた。
刹那、相棒がおれにガンたれてきた。




