オリジナルアクション
それにしても野村のやつ、『俊冬と俊春は副長の息子』ってとんでもない偽情報を、味方全員に拡散しているんだな。
このSNSのない時代にこれだけほぼ正しく拡散されるなんて、ある意味すごいと思わざるを得ない。
もっとも、元ネタが間違っているところが残念でならないのだが。
副長はおれを散々殴り、虚仮にし、ののしりまくって溜飲を下げたようである。
それから、いつものごとく俊冬と俊春と相棒を褒めそやした。
あのー、おれも参加したんですけど。
相棒に銃を放っただけだけど。
そういいかけてやめた。
副長たちの様子が、あまりにも親子っぽくていいだせる雰囲気ではなかったからである。
それは兎も角、またしても俊冬たちは奇蹟を起こした。
敵に大打撃をあたえたばかりか、味方にいい影響をあたえてくれた。
しかも、たった三人の働きによる成果である。
これは、味方にとっては士気をあげるいい機会になったであろう。
結局、おれたちは大鳥らと夜営することになった。
夜半の移動は危険だからである。
もっとも、副長にとっては大鳥と夜営することも十二分にリスクがあるのだろうけれど。
まっ、おれには関係のないことだ。
その後すぐ、俊冬と俊春と相棒は、木古内周辺だけではなく広範囲におよんで物見をおこなった。
その結果、とりあえず敵はいったん後方まで退いて再出撃の準備を整えているという。
人類の叡智たちは、じっとしていることをしらないらしい。
かれらは野営地に戻って副長に報告をすると、今度は放り投げた四丁の銃もふくめ、銃の手入れをはじめてしまった。
ちがう隊の銃にもかかわらず、である。
「すこしは体躯を休めやがれ」
副長は、大鳥よけにと島田と蟻通と安富を周囲にはべらし、俊冬と俊春と相棒に命じた。が、俊冬と俊春にいたっては笑ってごまかすだけである。
「それで、あの奇蹟の業はいったいなんのパクリだったんだ?」
できるだけ俊春をみずに尋ねてみた。
そちらへ視線をちらりとでも向けようものなら、かれはまた大騒ぎしはじめるだろう。
そのタイミングで、人見と伊庭がやってきた。
伊庭は両掌に水が入っているであろう竹筒を握っていて、その片方を副長に放った。
「ああ、あれ?あれはわんこのオリジナルかな?あんな非常識なこと、どんな作家や漫画家だって想像しないだろう?」
俊冬が呆れたように答えると、その隣で胡坐をかいて銃をばらばらにしている俊春は、頬をふくらませた。
「しかし、耳朶がきこえず片方の瞳がみえぬ状態で、よくぞあれだけ動けるものだ。いつも不思議に思ってしまう」
島田が嘆息まじりにいった。
「ええっ?ぽちは、耳朶がきこえぬのですか?それに、瞳も?」
「あれ?いわなかったですか?京から大坂城に逃げた際、ぽちは京から追撃してきた敵の大砲を破壊したんです。その際に爆発音や原因不明の要因で、両耳がきこえなくなり、片方の瞳がみえなくなったんです。瞳の回復は難しいですが、耳の方はもしかすると治るかもしれません」
おれが説明すると、人見も伊庭もさらに驚いている。
「まったく気がつかなかった。それで、あれだけの剣技を?」
伊庭などは、超常現象のように思っているだろう。
かれらの動きは、まさしく人間以外の力の作用の結果みたいに錯覚をしてしまう。
伊庭は、そのあとだまりこくってしまった。
俊春の超常現象的、あるいは神をも超えるアクションは別にしても、剣術という点においてはシンプルにすごすぎると思っているにちがいない。
実際、俊春の剣はすごいのだから。
ハンデキャップを悟らせないだけの実力がある。
これもまた、かれが常日頃から超絶すごすぎる鍛錬をしている成果にすぎない。
「もう慣れたからね」
当の本人は、そういって苦笑する。
「それが当たり前だとかんがえれば、健常者とおなじようにみたりきいたりできるから」
かれはさらっというが、それがどれだけ大変なことか。
すくなくとも、健常者であるおれには想像の範疇をこえている。
「とはいえ、ぼくだけでは力をだしきれないからね。周囲にいるみんなの力だよ。それが一番おおきい。みんなに助けてもらってこそだ。だから、いまのぼくがいる」
俊春はつづける。
謙虚で思いやりのあるこの態度は、聖人君子レベルである。だからこそ、好感がもてる。
こういう控えめな態度こそ、是非ともどこかのだれかさんに見習ってもらいたいものである。
「主計っ!なんだとこの野郎っ」
刹那、副長が怒鳴ってきた。
「だから、なにもいっていません」
「いいやがっただろうが」
「だいいち、いまのは名をだしませんでした」
たしかにいまのは、心のなかでだれかを特定したわけではない。
「ということは、自覚されているわけですね?」
「馬鹿野郎っ!おれは、だれよりも謙虚だ。「キング・オブ・ケンキョ」ってやつだ」
なんと、副長がそんなことを。
副長は、謙虚という言葉の意味をご存知ないのだろう。




