たらしと子守り
女性二人は、見惚れている。
見惚れられている本人は、そうとわかっていてさらに魅力を力いっぱいふりまいている。
これはいったいなんだ?
右の掌に松吉の小さな掌を握り、左の腕には松吉の弟を抱き、茂を肩車し、その光景をただ茫然と眺める。
そこには、屯所内の説明をしている副長と本日の客人、つまり、女性二人がいる。
女性二人は、副長の話をきいちゃいない。
いや、副長の美声に酔いしれてはいても、屯所のことなどどうでもいいはずである。
副長の爽やかすぎる笑顔が、きらきら眩しい。
まるで少女漫画である。
副長の周囲にきらきらマークがでているのがはっきりみえる。
女性二人は夫がいる。
しかも、夫たちは離縁や死に別れているわけではない。
たしかに、松吉の父親のことはよくしらない。きいていないからである。だが、すくなくとも生きている。そして、一緒に寝起きしているだろう。茂の父親もそうだ。ちゃんと生きている。しかも、いまは巡察で市中をまわっている。
いまも昔も、もとい、いまも未来も、女性ってのはどうしてこう男前に弱いのか?
男は顔じゃない。心だ、と力説したくなるのは、おれだけではないであろう。
「わんわん」
松吉の弟が叫ぶ。
市村ら子どもたちが、相棒を連れてきてくれたのである。
かれらは、相棒との訓練に朝の二時間ほどを費やしている。
「わんわん」
肩の上で、茂も叫ぶ。
赤子二人は、ばたばたと暴れだす。
「おいおい二人とも、わかったから、わかったからおとなしくしてくれ・・・」
泣きたくなる。
ちいさな子どもに接する機会など、そうそうなかった。正直、苦手だ。どう接していいのかわからない。
「主計さん、いつから子守り担当になったの?」
玉置がきいてくる。無邪気な笑みとともに。
「頼むから、みんな、どうにかしてくれ」
大人げなくも、子どもたちに泣きつく。
視界の隅で、いまだ二人の女性がイケメンに見惚れている。そして、イケメンはあいかわらず爽やかすぎる笑みで、人妻を誑しこんでいる。
原田が戻ってくればいい。一刻もはやく、戻ってきてくれればいい。
どろどろの愛憎劇を描いた昼メロを、唯一の愉しみにしている視聴者のように妄想チックになってしまう。
「きつねうどん卵入り」
その一語ではっとする。
市村が、おれの肩上の茂を抱きかかえながらいいはなつ。
「なんだって?」
ききかえしてしまう。
「きつねうどん卵入り。これで手をうつよ、主計さん」
子どもらは、手際よく赤子二人を相棒の背にのせたり、あやしたりしはじめる。
赤子二人は、相棒の頭や背中を上機嫌でぺしぺし叩いている。
相棒と瞳があう。
(沢庵、沢庵で手をうってやるよ・・・)
相棒のつぶらな瞳は、たしかにそういっている。
たかられすぎて、ちかいうちに身代をもち崩すに違いない。