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星さんと大鳥さん

 相棒が、木々の間からでてきた。


 どうやら、おれたちの道案内をしてくれるらしい。


 そこで、進路を広い道から狭い道へとかえた。


 相棒は、馬一頭通るのがやっとの狭い道を全速力で駆けてゆく。


 そのうしろを、蟻通、安富、副長、島田、おれがつづく。


 副長を真ん中にしているのは、敵の目をごまかすためであることはいうまでもない。


 世紀のイケメン土方歳三は、いろんな意味で相貌かおが知れ渡っているであろうから。


 お馬さんたちは駆けつづけて疲れているであろうが、相棒を必死で追いかけている。


 すると、しばらくすると木々が途切れ、岩場がみえてきた。


 そこに、味方の隊がいる。


「土方さん」

「歳さん」


 その味方の隊は、遊撃隊の一部と星恂太郎ほしじゅんたろうという仙台藩士が率いる額兵隊の一部であった。


 星は、なかなか激しい性格の人である。しかし、江戸で遊学していたころには、昼間は働きながら夜は砲術を学ぶというがんばり屋でもある。


 髪を五分に分け、鼻筋の通っている醤油顔のイケメンである。


 ウィキに写真はのっていなかったと思うが、webに画像はでている。


 かれはイケメンはイケメンであるが、そのイケメンからは想像ができぬほど熱い男なのである。


 その星の姿は見当たらない。


 おれたちをみつけた人見と伊庭が、こちらに駆けてきた。


 お馬さんからおりると、安富がそれぞれの馬の手綱を回収してまわり、過剰なほどお馬さんたちをねぎらいはじめた。


 周囲にいる遊撃隊や額兵隊の兵士たちは、そんな安富をみて「なんじゃこいつ?」みたいな表情かおで、あきらかひいている。


「おお、どうだ?」


 副長は、言葉を端折って戦況を尋ねた。


「ここはまだです。ですが、大鳥さんと星さんが伝習隊と額兵隊の一部を引き連れ様子をみにいきました。まだ戻ってこないのです。それと、松前方面から敗走兵がこちらへ流れてきています」


 人見が、崖のすぐ側でたむろしている兵士たちへ視線を向けた。


 それをチラ見してから、かれはつづけた。


「ぽちたまが、大鳥さんと星さんの様子をみにいってくれました」

「ならば安心だな」


 副長は、イケメンをおおきく上下させた。


 たしかに、俊冬と俊春なら安心だ。


 だが、まるで副長自らの采配であるかのようにドヤ顔でうなずくのは、どうであろうか?


「なんだと、主計っ!」


 ほら、また叱られた。


「歳さん、その分なら楽勝だったようですね」

「八郎、当然だ。愚問だぞ」


 そして、二股口での十二時間におよぶ激戦の勝利が、まるで自分だけの大活躍によるもののようにドヤ顔で応じるのは、どうであろうか?


「なんだと、この野郎っ!」


 今度は拳固が飛んできた。


「隊長っ!」


 そのとき、遊撃隊の一人が叫んだ。


 木々の間に一軍がみえた。こちらへまっすぐ駆けてくる。


 相棒が、最前列で四つ脚を踏ん張っている。

 が、尻尾を上下左右に振っている。


 ということは、あの一軍は味方で、しかも心やすい顔見知りということになる。


「土方君っ!」


 そのとき、JKのごとき黄色い声が飛んできた。


 その姿はみえずとも、いまの声がだれのものなのかは、地球が丸いのとおなじくらいわかる。


「土方君、土方君、土方君、土方君っ!」


 どうやら、新撰組には土方君がたくさんいるらしい。


「ちっ、土方君は二股口で戦死したことにしたいよ」


 副長のつぶやきが、たしかにそうきこえてきた。


 はい。とっても共感できます。


 でも、対象は土方君であって相馬君ではない。


 だから、大鳥の愛を存分に受け、堪能していただかないと。


 んんんんん?


 ということは、めっちゃ積極的な榎本や大鳥が攻めで、副長が受けってことになるのか?


「それはウケ(・・)る。なんちゃって(・・・・・・)


 なんと、島田まで駄洒落ってきた。しかも、「なんちゃって」って死語までつかっているし。


「だれが受けだ、この野郎っ!」


 なんと、副長がそこをツッコんできた。


 副長が拳をふりかざしつつ、こちらに迫ってきた。


 その瞬間「ひーじーかーたーくーん」、そんなきゃぴきゃぴっていうか甘ったるいっていうか、兎に角、いい年齢としぶっこいたおっさんとは思えぬようなイタイ声とともに、副長がうしろから襲われた。


「馬鹿たれ、襲われてないっ!ってか大鳥さんっ、おれにくっつくんじゃない」


 なんと、副長のことが好きすぎて狂愛っぽくなっている大鳥が、馬から飛びおりるなり副長の背にしがみついたのである。


 これにはおれだけでなく、この場にいる全員がフリーズしてしまった。


 ただ呆然とみつめるしかない。


「土方君、土方君。無事だったんだね。ぼくも無事だよ」

「そうかい。それは、残念でならないよ」


 副長は、背中のくっつき虫を振り払おうとムダに体を動かしている。が、くっつき虫の粘着力の方がすごすぎて、ちっとも振り払えそうにない。


 大鳥は、もはや子泣き爺のごとく副長の背中にはりついている。

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