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スマートスピーカー

 本来なら、おれも弁天台場かどこかちがう隊に加わり、別の戦闘に参加するのかもしれない。


 しかし、そんなことはささいなことである。


 それに、おれがいなければ副長が寂しがるにきまっている。


 副長にそんな寂しい思いをさせてはならない。


 というわけで、おれも二股口の戦いに参加することにした。


「やっぱり受けだよな」

「うん。ガチに受けだよね」

「どわっ!」


 称名寺の門前で、副長がでてくるのをまっている。

 すると、どこからともなくわいてでてきていわれのない断言をしてくる奴らがいる。いつものように、おれを間にはさんで……。


 そんなことをする奴らとは、当然のことながら俊冬と俊春である。


 朝餉の前、二人には市村のことを伝えておいた。


 ひと段落ついたら、どちらかが、あるいは二人そろってフィードバックしてくれるだろう。


「なんだよ。また受け疑惑か?」

「疑惑?主計、きみは疑惑の意味をしっているの?」

「オッケー、グ〇グル。疑惑の意味をおしえて」


 俊冬が右耳にささやいてきた瞬間、俊春が左側で笑いながらおれの双眸にはみえぬスマートスピーカーに尋ねた。


「わたしは、ア〇クサです。グ〇グルって、まさか浮気ですか?」


 すると、右側で俊冬がかたい声でいい返した。


「いや。ア〇クサ、ごめん。ちょっといい間違えただけだよ」


 おれがくわわった。


「やっぱり浮気です。しっているんですよ。Sh〇riのも追いかけていますよね」


 俊春が返してきた。


 しかも、『Sh〇ri』と尻をかけてきた。


 それから、三人で大笑いした。


 やっぱ、いいわ。最高だ。こんな会話、マジで愉しすぎる。


「なんだ?愉しそうだな」


 そのとき、副長が門からでてきた。


 島田と蟻通を従えている。


「いえ、ちょっとした雑談です」


 笑いながら答えると、副長はただ笑っただけでそれ以上の詮索をしなかった。


「ところで、利三郎は?」


 副長は詮索はしなかったが、別の問題を提起してきた。


「まぁ、いるわけはないな。くそっ、一人でも人手がほしいのに」


 副長、気持ちはよくわかります。


 が、朝餉のあと、野村の姿をまったくみていない。どこに雲隠れしているのか、まったく気配がない。


 相棒と俊冬と俊春の鼻ですら、においをキャッチできぬらしい。


 探す手間じたいがときの無駄であろう。


 ゆえに、放置することになった。


 そんなこんなで二股口へ進軍してから、まずは土塁胸壁造りにとりかかった。


 俊冬と俊春の指示のもと、伝習隊の歩兵や衝鋒隊、フランス軍の将兵たちと一丸となっての作業である。


 だれもが土だらけ泥まみれになった。


 訂正。副長、以外の全員である。


 フランス軍士官ですら上着を脱いで手伝ってくれているのに、副長だけはどこ吹く風であるきまわっては重箱の隅を突っつくようにいちゃもんをつけまくっている。


 今回、相棒があちこち飛びまわって熊を警戒してくれた。


 結局、準備が万端に整うまでに丸二日間かかった。


 その時点で、久吉と沢が市村と田村を連れ、五稜郭へともどっていった。


 かれらが残りたがったのは当然である。


 が、市村は思いだしたらしい。


 たった一人で蝦夷から日野へつかいにだされるかもしれない、ということを。


 命じられたことに素直に従わなければ、史実どおりになる。


 かれはきっと、そう判断したのだ。だから、田村をうながして命令それに従った。



 雨が降ってきたのと同時に、物見にでている俊冬と俊春がもどってきた。


 史実どおり、敵の軍勢七百名ほどが、進撃してくるという。


 緊張がはしるのは当然のことである。


 こちらは三百名。倍以上の数の敵軍に立ち向かわねばならない。


「いいですか?敵にたいして、ただ単純に銃をぶっ放せばいいというものではありません」


 隊長クラスとフランス軍士官をまえに、俊冬が自分メイドの地図を示しながらいう。


「それぞれの地点から十字砲火を浴びせます。わんこが敵を誘導します。それに合わせ、まずは正面、これは囮です。敵が正面にたいして応戦しはじめたら、側面から攻撃します。敵の別の隊がそれに応戦しはじめたら、また別の角度から銃撃します。これの繰り返しです。敵は倍以上ですが、地形上実際の稼働率はおれたちよりすくなくなります。そして、わんこが陽動ついでに敵を攪乱、攻撃をします。これらで敵の戦力はかなり低下します」


 俊冬の説明に、だれもが生真面目な表情かおでうなずいている。


 フランス軍の士官たちには、俊春がトランスレイトする。


「銃を冷やすのを忘れぬよう」


 俊冬の説明の後、副長がシメた。


 副長、たったそれだけっすか? 


 俊冬の事細かで具体的で実際的な説明にくらべ、やけにシンプルだ。


 シンプルすぎてびっくりだ。


「なんだと、この野郎っ!」


 副長にまたしても叱られた。


「史実では、半日以上の激戦になります。ですが、勝てます。ぜったいに勝てます」


 これでは、副長の指揮官としての能力が疑われる。


 ゆえに、副長にちかづいてそう耳にささやいた。




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