ご招待
驚いたことに、副長が、それを提案してくれた。
それは、あの「鬼の副長」がまさかの?と思わせるだけの破壊力をもつ。
結局、原田の刀の鞘は、みつからずじまいである。
殺された目明しの助蔵から奪ったのは、いったい何者であるのか?
あるいは、そこからまた、何者かへと渡っているのか・・・。
刀の鞘など、なにに利用するのか?
その中身ならともかく、鞘だけあってもなんの役にも立たぬのはいうまでもない。
もっとも、鞘フェチが存在するのならべつであるが・・・。
だが、しっている。いや、鞘のありかについてではない。さらには、だれがもっているかについても。厳密にいえば、それらについて推測をしている。
しっているのは、原田の鞘が、なにに利用されたかである。
そう、原田の鞘の使用目的は、現代においてはっきりとわかっている。
むしろ、それが不可思議でならなかったくらいである。
なにゆえ、原田のであったのか?いったい、いつ、どこで、どうやって、原田の刀の鞘だけを入手できたのか?
そして、幕末でそれをしることができた。しかも、それを相棒とともに追うという、特典までついた。
この日、屯所に客があった。いや、屯所に招かれた客である。
それは、二組の親子である。
一組は、原田の細君のおまささんと息子の茂。もう一組は、原田の鞘を、助蔵が現場からもち去るところを目撃した、松吉母子である。
小さな目撃者に、なんらかの礼をしたかった。もちろん、現役時代に目撃者に礼をすることなどない。幕末であるからこそだ。
副長には、原田と一緒に報告をした。
鞘をもっていたであろう目明しが、土左衛門で発見されたところまで。
その際、松吉になんらかの礼をしてもいいか、と許可を求めたのである。すると、副長が提案してくれた。
屯所訪問を・・・。
刀の好きな松吉は、まだ幼い。刀そのものを、プレゼントするわけにはいかない。そこで、屯所に招き、道場で剣術をみせてやってはどうか?、というわけである。
が、子はそれでよくとも、連れてくる母親はそうはいかぬ。
それでなくとも評判のよくない壬生浪の本拠地に、女子どもだけでくるには、そうとうな覚悟がいるはずである。
そこで、原田の妻子というわけである。松吉の弟と茂はおなじくらいだし、母親同士もおなじくらいの年齢であろう。
話もあうだろう、と。
さっそく、母親からきいていた住まいを訪れ、その旨を打診してみた。
母親は渋るであろう、と正直思った。が、意外にも喜んでくれた。ぜひ、とまでいわれてしまう。
その翌日に屯所にきてもらうようお願いし、松吉の住まいを辞したのである。