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遺品のお届け人

 木古内で戦うのは、遊撃隊だけではない。


 大鳥率いる伝習隊や彰義隊や額兵隊など、逃げてきたり吸収したりといろんな隊がより集まって激戦を繰り広げる。


 そこで散る兵の数はすくなくない。


 そのすべてを救うことは無理である。


 だが、一人でもおおくの兵を救いたい。


 結局は、俊冬と俊春に頼るしかない。


 おれには、たった一人すら護れないかもしれないからだ。それどころか、自分自身だって護れないかもしれない。


 実に情けない話である。


 つくづく思い知らされる。




 夜も遅い。ってか、深夜である。


 人見も伊庭も、今夜はお泊りである。


 ひと眠りしてから、遊撃隊に戻るらしい。


 というわけで、かれらと島田と蟻通は、副長の部屋で鼾をかいて眠っている。


 狭くて場所がなくなってしまったこともあるが、寝そびれてしまった。


 副長に話があるといわれた。


 俊冬と俊春も同様である。


 副長はどこかに去ろうとするかれらを呼びとめ、称名寺の境内にある井戸へと移動した。


 井戸端だと、話し声が屋内にまで届くことはない。


「鉄のことだ」


 おれたち四人・・を前にし、副長は開口一番そういった。

 四人というのは、相棒も含まれている。


 市村のことは、俊冬と俊春も了解済みである。


「おれから鉄に話しましょうか?」


 俊冬が控えめに申しでた。


「いや。やはり、おれ自身が命じるべきであろう?」

「どうしても脱出させないといけないのですか?」


 俊春のいまの問いで、かれもまた市村を遠くにやりたくないのだと察した。


「主計の案だが、日野うちによって遺品とやらを託した後、丹波にゆくよう命じるつもりだ」

「それは、おれたちもかんがえていました。なんでも、鉄は数年後に死ぬ可能性があるとか。文を添えて丹波にやれば、原田先生たちがうまくやってくれるでしょう。向こうにいるみなさんもおおよろこびされるはずです」


 俊冬も、おれとおなじことをかんがえていたんだ。


「ああ、そうだな」

「鉄がいなくなると、銀も寂しくなりますよ」


 俊春は、実は自分が寂しいくせして、つぎは田村のことをもちだしてきた。


 うん。気持ちはわかるけどね。


「ただ日野にやるだけなら、そこは省いてもいいだろう。だが、副長の所持品を託さなければならないんだ。省くわけにはいかないだろう」


 俊冬が俊春をたしなめると、俊春はシュンとした。


「わかっている。わかっているけど……」

「じつは、日野にゆくのは鉄だけじゃありません。安富先生が手紙、いえ、文を立川たちかわさんに託し、立川さんが終戦後に投獄されるため、沢さんに託します。沢さんが安富先生の文を届けるわけです。そのずっと後になりますが、安富先生も立川さんもそれぞれ日野を訪れることになります」


 立川というのは、立川主税たちかわちからという古参の隊士である。


 かれは、この戦を生き残る。投獄された後、日野を訪れ、それから仏門に入る。住職を務め、生涯副長らの菩提を弔ったと伝えられている。


「しかし、二人とも投獄されてしまう。刀や写真を託すことはできません。ですが、沢さんならうまく届けてくれるはずです。それに、久吉さんもいらっしゃいます。久吉さんは、もともと京で御陵衛士の近藤局長襲撃事件で死ぬはずでした。二人に託せばいいかもしれません」


 そう告げながら、われながらグッドアイデアだと思った。


 沢も、副長の最期を看取る一人である。


 史実では、かれは立川から安富の手紙、それから商人から副長の下げ緒を託されて箱館から脱出し、日野に向かう。


 かれの才覚なら、充分敵の目をくらまし、逃避行できる。


 そうだ。二人に託せばいい。


 ようは「兼定」と写真が、佐藤家に届けばいいのである


 だれが届けようと、そこは問題ではない。


「きみにしては、いいアイデアだよね。ねぇ、にゃんこ?」

「ああ、そうだな。わんこのいうとおり……」

「だめだ。やはり、鉄に届けさせる」

「副長っ」


 せっかく俊冬と俊春も賛成してくれているというのに、副長がダメだしをしてしまった。


 思わず、『副長っ』と怒鳴ってしまった。


 慌てて周囲をみまわした。


 が、静かなものである。


 夜間も見回りにでている。その当番が戻ってくるまで、まだすこし時間がある。


 それ以外は、ぐっすり眠っているだろう。


 本当は、称名寺じたいにも見張りを立てている。


 が、明日出陣するということと、俊冬と俊春と相棒という世界一有能なセキュリティーシステムがいる。


 ということは、見張りは必要ない。ゆえに、副長が見回り当番以外はしっかり休むことができるよう配慮したのである。


 それは兎も角、副長の依怙地さには、おれだけではなく俊冬と俊春も驚いている。


 ってか、呆れている。


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