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マジで悪気はないんですよ

「あ、ああ……」


 副長は、あきらか困惑している。


 いや。人見は協力してくれる。それはそれで、喜ばしいかぎりである。


 これで、なにもかもがやりやすくなる。


 だが、このもやもや感はなんだ?


 いや。そのもやもやがなにかはわかっている。


 人見の伊庭を死なせたくない理由が、あくまでも「人見自身が不便にならないため」ということだからである。


「八郎、大丈夫だ。わたしがついているかぎり、おまえは死なぬ。生きて、わたしを補佐するのだ」


 人見は、おれたちの困惑をよそに上機嫌で伊庭の肩をたたきまくって「死なせぬ」宣言をしている。


「あ、ちがうのです」


 伊庭は、そんなおれたちの困惑に気がついたらしい。


 かれは、きらきらする相貌かおと剣ダコだらけの分厚い掌を、ぶんぶんと音がするほど振った。


「勝太さんに悪気はないのです。勝太さんって、見かけによらず照れくさがり屋なのです。八郎わたしがいなくって不便というのは、八郎わたしがいなくて寂しくて耐えられぬ、という意味なのです。勝太さんって、わたしのことが大好きなのです」

「……」


 いまのはいまので衝撃的である。


 なに?


 じゃあなにか?


 人見は伊庭のことが大好きで、それでもって照れ屋さんだから、不便だなんてごまかしたってわけなのか?


「島田先生、こういうのを「恋のライバル」というのです」

「たま、シャラップ!」


 伊庭の説明でまたしても唖然としていると、俊冬が島田にささやいた。


 あ、ちがう。ささやきなんてかわいいものではなかった。


 庭まできこえるような大きさの声だった。


 だから、思わず制止してしまったのだ。


「うふっ!こういうのって「恋の当て馬」だよね」

「ぽち、シャラップ!」


 さらに、俊春までいいだした。


 しかも『うふっ!』だなんて、めっちゃうれしそうだ。


 ってか、人見と伊庭ってそういう関係なのか?


 もちろん、いまのそういう関係というのはBL的関係であることはいうまでもない。


「ああ、そうか。そうだったのか。まぁ、だれかさんよりかは家柄にしろ人間ひとにしろずっとマシだし、八郎にとってはふさわしいな」

「副長っ、シャラップ!」

「この野郎っ!だれに向かっていってやがる」

「いたっ。す、すみません。つい」


 上司に向かって『シャラップ』だなんて、それは拳固を喰らっても仕方がない、よな?


 いや、仕方なくない。


 パワハラすぎる。


「いえ、ちがいます。誤解です。わたしたちは、まだ(・・)BL関係ではありませんので」


 そのとき、伊庭が断言した。


『まだBL関係ではない』


『まだ』、という一語が、頭と心のなかで反響しながらリピートされまくっている。


「よかったな、主計。まだチャンス(・・・・)があるではないか」

「さよう。もっと積極的にアタック(・・・・)すべきだ」


 島田と蟻通が声をかけてくれた。


「主計、そうだぞ。押しまくれ。押して押して押しまくって、さらには押し倒しまくってモノにしろ。おれみずから応援してやる。ありがたく思え」


 さらには、副長が謎応援をしてくれた。


 ってか、押しまくって押し倒しまくったら、ただのイタくてヤバいやつじゃないか。


 しかも、めっちゃ上から目線だ。


 いくら副長だからって、どれだけ上からなんだ?


 ってか、おれだって誤解だっていいたい。


 おれには、どうでもいいことだ。


 だって、おれはBLではないんだから。


 伊庭が人見と付き合うようになろうとBL関係になろうと、おれには関係のないことだ。


「またまた、強がりをいって」

「あきらめるな」

「落ち込むな」

「自分の気持ちに嘘をついたらダメだよ」


 俊冬、島田、蟻通、俊春が、順番にいってきた。


「なんなら、おれみずからが人見さんを始末してもいいぞ。主計、そうすりゃ八郎はおまえ一人のものだ」


 さらには、副長である。


 いや、まって……。


 そんなこと、めっちゃ韓流ドラマ的展開じゃないか。


「あ、だったら、勝太さんがわたしの影武者になるっていうのはどうでしょう?」


 そのとき、伊庭がきらきら光る笑顔でそう提案してきた。


 なんだか遊撃隊の、ってか人見と伊庭の闇のように濃く深い関係を垣間見たような気がする。



 そんなおどろおどろしいやり取りを経て、ようやく打ち合わせをちゃんとおこない、それが終った。


 マイ懐中時計は、丑三つ時を示している。


 打ち合わせでは、俊冬と俊春が綿密に下調べし、手書きで記した地図をみつつ、マジでこの後の戦いについて話し合った。


 それにしても、俊冬と俊春はさすがすぎる。


 二股口だけにとどまらず、ちゃんと木古内方面までつぶさに見てきているのだ。


 その時点で、二人の頭のなかで新政府軍との攻防の様子を思い浮かべていたのだろう。

 

 さらには、どう攻守すればいいかまでイメージできたはずだ。



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