表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1148/1254

コーヒーとパウンドケーキ

「ひどいですよ。おれが、そんなことをするわけありません……」

「手とり足取り、ついでに腰取り教えるだけだよな」

「ちょっ……。なにをいいだすんです、蟻通先生。いまのは名誉棄損レベルのジョークですよ」


 腰取りって……。


 どんなんだ?


 一瞬、脳裏に思い描きそうになった。


 やばい、ダダもれしてしまう。


 すんでのところでモザイクをいれた。いや、ちがった。思考をシャットダウンした。


 そのタイミングで、俊冬と俊春が胸元に盆を抱えて縁側にあらわれた。


『ザ・コーヒー』の香りだけはちゃんとしたコーヒーの香りが、鼻をくすぐる。


「おっ、いいにおいだ」


 いまや副長も、すっかりコーヒーLOVEになっている。


 すっと筋の通る高い鼻をひくひくさせながら、うれしそうにつぶやいた。


「コーヒーというものだ。すごくうまい。吞んでみてくれ」


 副長は、俊冬と俊春がそれぞれのまえにコーヒーとパウンドケーキみたいなものを置きはじめると、さも自分が入手したみたいに自慢げに紹介しはじめた。


「これはなあ、異人が好んで呑むものなんだ」


 さらには、おれの受け売りまでいいはじめた。


「呑みやすいように、砂糖と牛乳をいれています」


 俊冬が控えめにいう。


 島田と蟻通と伊庭と人見は、物珍しさもあって、カップをためつすがめつしている。


 ってか、これだけの人数分のカップをよく入手できたものだ。


「これってパウンドケーキ?」


 おれのまえに置いてくれた俊春に尋ねてみた。


「うん。バターは入ってないけどね。小麦粉と卵と砂糖でつくってみた」

「わお。コーヒーにあいそうだよな」


 正直、現代でコーヒーのおともにパウンドケーキを喰うなんてことはなかった。


 すくなくとも、選択肢にはなかった。


 だがしかし、いまは大歓迎である。


 むしろ、めっちゃ喰いたい。


 よくよくかんがえてみたら、さっき鹿肉カレーを二杯、特大ナンを三枚喰った。


 いくらスイーツが別腹だからって、これはダメなんじゃなかろうか……。


 でもまぁ、明日から二股口で重労働になるし、まっいっか。


『明日からダイエットするぞ』


 そんな宣言を毎日するのとおなじ真理である。


 つまり、自分に都合のいい大義名分をおったてて、納得するってわけだ。


 はあああああ……。


 おれってば、ますます自分に甘々でどんどん節度がなくなっていっている。


 このままではいけない。


 なーんてことも、戦争時の特殊な環境下だから仕方ないか、ですませてしまう自分が馬鹿すぎる。


 ちなみに、「スイーツ大魔王」の島田がパウンドケーキをおおよろこびしたのはいうまでもない。


 さらには、兼定兄さん想いの俊春が、相棒にパウンドケーキのかわりに沢庵をやってくれた。


 鹿肉も、カレーにはせずに出汁で煮込んでぶっかけ飯にしてくれたという。


 兼定兄さんは、大満足にちがいない。 


 人見と伊庭と蟻通は、カップのなかの未知なる液体をしばらくみおろしていた。それから、鼻をちかづけてくんくんにおいを嗅いだ。


 それからやっと、おずおずとカップに口をちかづけた。さらには、恐々といった感じでカップを口につけてまずは一口すすった。


 まあ、はじめての飲み物だ。だれだっておなじリアクションになるだろう。


 じっと三人をみつめていると、一口すすってから「おや?」って表情かおになった。さらに二口ほどすする。


 三人ともまったくおんなじリアクションだから、思わずふきそうになった。


「あ、これはうまい」

「誠ですね。これはなかなか」

「ほー、なかなかうまいではないか」


 そして、判定がくだされた。


 さらには、島田である。


 自分のまえにカップとパウンドケーキが置かれた瞬間、島田の表情かおがめっちゃゆるんだ。それだけではない。めっちゃしあわせそうなオーラがでまくった。


「おお……。うまそうなにおいだ。こちらの飲み物から、甘いにおいがする」


 甘いにおい?


 一瞬、島田だけちがう飲み物が配られたのかと思った。


 かれはカップを持ち上げると「スンッ」と豪快ににおいを吸い込んだ。それから、「ズズズッ」と外人がきいたら眉をひそめそうな勢いの音を立てつつ、豪快にすすった。


「おおおおおおっ!これは、甘くてミルキー(・・・・)な味わいだ」


 かれの表情かおは、いまや絶頂って感じである。


 ってか、甘くてミルキー?


 カフェオレ的な?コーヒー牛乳的な?


 それって、もはやコーヒーじゃなくなってなくないか?


「パウンドケーキか?これもまたデリシャス(・・・・・)だ。口のなかにいれた瞬間、口中でとろけてしまう。卵のまったり感もじつにいい仕事をしている」


 ちょっ……。


 すげー食レポだ。


 実は、島田ってグルメリポーターなのか?


 いろんな国の喰い物を喰っては、SNSにあげているとかか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ