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市村のこと

「主計、きみは現実とコミックの話がごっちゃになっているよ」

「にゃんこの言う通りだね。じゃあ、その辺から白い狼がでてきたり、かわいらしい少女がでてきたりするんだ」


 俊冬と俊春にツッコまれてしまった。


 二人のいうとおりである。


 蝦夷、というよりかは北海道、アイヌ、それから土方歳三とくれば、「ゴールデ〇カムイ」しかないでしょう?


「いやー、すみません。いまのは漫画の話です。金は戦国時代くらいにはあったかもしれませんが、いまは砂金程度かも。それも、みつけようとしてもなかなかむずかしいかもしれませんし」

「ちっ、ぬかよろこびさせるんじゃないよ」

「副長って、意外と俗っぽいんですね」

「ああああ?どういう意味だ?」

「だって金塊に喰いつくなんて……」

「そりゃぁそんなものがあれば、軍資金の足しになるだろうが。無理矢理関所を設けて人々から金子を巻き上げたり、豪商からなかば奪うようにして物資を援助してもらったり、異国人に頭をさげてなにかしらを提供してもらったり、などということをせずにすむ。自身らの軍資金は、ある程度自身らで賄う。それが一番いいだろうが」

「ごもっともです。すみません」


 素直に謝罪した。ついつい興奮してしまってぺらぺらといらぬことを囀ってしまった。


「それで、なにゆえアイヌの集落に?」

「ああ、敵に協力だけはしてもらいたくないからな。敵は、蝦夷ここの地理に疎い。蝦夷ここにいた松前藩の連中だって、くまなく知りつくしているわけではない。だとすれば、地元の人間ひとを雇うのが一番だ。おれたちに協力してくれなくていい。せめて、敵にも協力してもらいたくない。それを頼みたかったんだ」


 なるほど。この辺りを統治していた松前藩も、蝦夷の地を開拓していただろう。だが、知りつくしているわけではない。


 まったくもって副長のいうとおりである。


 こういう駆け引きっぽい面での洞察力、機転を利かせるところはさすがである。


「それならば副長。副長の名代として、おれとわんこがいってまいります」


 俊冬が提案した。


 それもそうだろう。


 本土からおしよせてきた和人のリーダー格が突然のりこんでいっても、アイヌの人たちが歓迎してくれるとは到底思えない。


 それどころか、かえって警戒させてしまう。


「それに副長。それならば、休日になりません」

「おっと、そうだったな。ならば、頼むとしよう。そうだな。これから称名寺にいってみるか」


 俊冬の指摘ももっともである。


 副長はそれを認め、結局、いつものパターンに落ち着いた。


 現代のように娯楽がない。することがないのである。


「ならば、おれたちはさっそくいってまいります。敵がやってくるのも間もなくです。はやいほうがいいでしょうから」

「すまぬな。だが、伝えたらすぐに称名寺にきてくれ。いいな?」

「承知。クロスボウもあることですし、なにか獲ってからいきます。陸で獲れなければ、海で魚を獲ってもいいですし。夕餉、愉しみにしておいてください」


 俊冬がいい、俊春とともにずぶ濡れ状態でアイヌの集落へと向かっていった。


 そして、おれたちは称名寺へと向かった。


 称名寺にゆくと、ほとんどの隊士がみまわりにでていた。


 なにもすることがなくて暇だからと、市村と田村もみまわりにくっついていっているらしい。


「そういえば、鉄がどうのこうのっていっていたな?」


 なにゆえか境内をウロウロ落ち着きなくあるいている副長が、思いだしたようにいいだした。


 そうなのである。すこしまえに、市村の今後のことを伝えようとしたのだ。


 が、途中でだれかがやってきて中断してしまい、話が宙ぶらりんになっている。


 話すなら、いまがちょうどいいだろう。


 だから、市村のこれからについて話しをしてきかせた。


 史実では、市村はもう間もなく蝦夷ここを脱出する。


 おそらく、史実での副長は自分たちが負けることを予感していたのかもしれない。それから、自分が死ぬことも。


 市村もムダに背が伸びて成長しているとはいえ、まだまだ子どもである。

 最後まで側にいさせるのは、不憫とかんがえたのかもしれない。


 市村は、副長の分身ともいえる佩刀の「兼定」と、例のムダにカッコつけている洋装の写真を託されて蝦夷を脱出し、日野の副長の実姉と義兄に届けるのである。


 その後、市村自身は実兄で元新撰組隊士の辰之助たつのすけと出身地で再会し、そこで病死したと伝えられている。が、西南戦争で薩摩側に加担し、戦死したという説もある。


 病死の説であればニ十歳で、西南戦争説なら二十三歳でこの世を去ることになる。


 どちらにしても、死ぬにははやすぎる。




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