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キラッキラ 青春の一コマ

 とりあえず、野郎ばっかりで波打ち際を素足であるいてみた。


 相棒は、打ち寄せる波の届かないところでじっとおれたちをみている。


 なんてこった……。


 これが少女漫画であったら、若い男女が戯れながら「キャッキャッ」と叫び、跳ね上がった水しぶきが陽光を受けてキラキラ光るって感じになる。


 じつにさわやかで青春っぽくって絵になる。


 しかしながらいまのおれたちは、そういう青春の一コマとはまったく異なる。


 なんだこれは?


 ちっとも青春っぽくもラブロマンスっぽくもない。


 それどころか、おどろおどろしくさえある。


 いや……。


 たしかに、野郎ばかり六人である。せめて、メンバーのなかに女性が一人でもいれば映えるかもしれない。


 が、女性はおらずともイケメンぞろいだ。まぁ、たしかに久吉と沢はちょっと残念ではある。が、それでもまったくみれない容姿ではない。


 そこまでかんがえたとき、その久吉と沢がじっとこちらをみていることに気がついた。


「あ……。な、なんでしょうか?」


 胸騒ぎがしたので、二人に尋ねてみた。


「あ、いえ。わたしたちのことをおっしゃったので」


 沢が控えめに答えた。


「な、なんですって?」


 思わず、尋ねた声がソプラノになっていた。


「ジョンさんが『主計はいつも独り言をいっているので、きいてみたら面白いぞ』と、おっしゃいまして。たしかに、きこえてきますので面白いな、と」


 久吉もまた、控えめに答えた。


 ジョン?


 一瞬、だれだかわからなかった。が、すぐに野村のあたらしい名前であることに気がついた。


 ってか、そこじゃない。


 おれの心のなかのダダもれは、久吉や沢にまできこえているのか?


 ってかジョンじゃない、野村の野郎。いらんことばっかいいやがって。


「あ、あははは。あ、いえ、スルーしちゃってください」


 頭をかいてごまかすしかないじゃないか。


 そのとき、思いっきり海水をぶっかけられた。


 副長と俊冬と俊春である。


 三人が並び、掌で海水をすくってはこっちにぶっかけてくる。


「うわっ、しょっぱい」


 口のなかにもはいってしまい、口中に塩っ気がひろがった。


「忠助と久吉もぶっかけてやれ。ひどいことをいうやつだ」


 副長が久吉と沢に命じた。


 ってか、いってないし。もれてるだけだし。


 命じられた二人は、戸惑っていた。が、再度副長に命じられ、仕方なしに実行にうつしはじめた。


 やられればやり返す、である。おれもぶっかけはじめた。


 最終的には俊春と沢が味方になってくれて、三対三でぶっかけあいになった。


 気がつけば、全身ずぶ濡れになっていた。


 波打ち際をみると、相棒がお座りをして「まるでお子ちゃまやないかい」ってな表情かおでこちらをみている。


 その相棒をみて、はたと思いだした。


 そうだった。相棒を洗わないといけなかったんだ。


 今日すべきだったかも……。


 まっ、いっか。


 散々波打ち際で遊んだあと、砂浜に座って「ザ・コーヒー」とカステラをいただいた。


 久吉と沢が一口吞んで「ぶっ」とふきだしたのが、じつに面白かった。


 当然の反応だからである。


 こうして、午前中をすごした。 


「このまえ、アイヌに熊を渡すっていっていたよな?」


 副長は、冷えたコーヒーを竹筒からすすりつつ尋ねた。


 尋ねた相手は、当然のことながら俊冬と俊春である。


 二人は、同時にうなずいた。


 先日の羆襲撃事件のときのことである。


 その際、俊春が仕留めた羆を、アイヌに引き渡すといっていた。


「そのアイヌの集落に連れていってもらえないか?」


 副長が頼んだ。


 驚きである。いったい、なにゆえ?

 ってか、なにかたくらんでいる?


 って、なんでおれをみる?


 副長をのぞく全員が、おれをじっとみつめていることに気がついた。


 どの視線も、『なにゆえアイヌの集落にいきたいのか、副長にきいてみろよ』といっている。


 いや、俊冬と俊春にいたっては、自分たちが頼まれたんだから自分たちで尋ねるべきだろう?


 それを、おれがなにゆえ尋ねなければならない?


「あの、副長。誠に畏れ多いのですが、なにゆえアイヌの集落に?まさか、アイヌの人たちと交流したりアイヌの歴史を勉強したりってことはないですよね?ってかもしかして、金塊のありかを示した入れ墨ををもつ囚人を探すんじゃないでしょうね?それはまだはやすぎます。シルバーグレイって呼ばれる時期まで待たないと。しかも、監獄の中で待たなければなりません」

「この野郎、なにをわけのわからぬことをいってやがる」

「それと、永倉先生にもきてもらわないと。二人で探すことになるんですから」

「あああああ?新八だあああ?ってか、蝦夷ここには金塊があるのか?」


 副長は、おれのシャツの襟首をつかんではげしく揺さぶりはじめた。





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